大切なものは、目には見えないけれど、重さはあるって知ってた?

悲しみは、かき混ぜると水に溶けるんだ。
水溶性なんだね。

黒板に流れるように綴られる文字。
長い髪をかき上げて、纏める
細く白い指先。

一人でも、なるべく遠くまで歩いていけるように、と
きみがくれたお守り。
光にかざすと逆光で、何も見えなかった。


欠けたグラスは、満たされない心の代名詞。
傾いた天秤は、生まれた罪の重さの証明。
止まった時計は、いつか来る終焉のことを指している。

物事には一つ一つ意味があるんだ、と説明をする、落ち着いた声。

「きみたちは不条理な世界に生きているのだけれど、それでも全体としては、人生を愛さなくてはならない。」


悲しみは涙に溶けて、河となり、海に、雲に、やがて雨となって、再びぼくらに降り注ぐ。
一人で何を犠牲にしたって、
これを最後に、とは、ならないのだよ。

覚えてる?
生まれて初めて世界を見たとき、綺麗だったね。
初めて見た空の青、雲の白、夕陽の燃えるような赤。
人生はそんな綺麗な世界の一部なのだと知って、誇らしくさえ思ったね。


別れ道。
ぼくたちの道は、ここまで。

ズルも弱さも、今は、見なかったことにして。
胸には、きみがくれたお守り。
ぼくもきみも、一人で。
一人でなるべく遠くまで、行けますように。



グラス/天秤/髪