「室長、何してんの?研究室で。その部屋…鼎絡みの部屋だよな」

御堂はようやく宇崎を見つける。
あの鼎とイーディスこと六道との因縁は何者かが仕掛けた爆弾により、予想外の展開に終わった。それから2日経った。


六道は爆発に巻き込まれて負傷したが軽傷、鼎は爆風の衝撃で仮面が割れたため病院にいる。心配なのは鼎の目のダメージ。


「鼎の目の検査結果が出たんだ。火傷のダメージが目に及ぶほど深刻なのはわかっているだろ。
仮面が衝撃で割れたのと周りが火の海に包まれた結果、彼女の目のダメージは若干進行してしまったんだよ…」

「ダメージが進行した!?目は見えてはいるんだろ!?」
御堂はオーバーリアクション。

「見えている。だから今、仮面のこの目元の黒いレンズあるでしょ?この部分をアップデートしてるわけ。
見た目は同じだが、鼎からしたらかなり見えやすくなってるようにしてあるんだよ。
ピント調整も鼎の意思で出来るようにした。ちょっとした鼎用のプログラムを搭載してんだよね。このレンズは」


レンズ部分だけ高性能にしたのか。見た目は見慣れたベネチアンマスクだが…。


「鼎の主治医から色々聞いたよ。やっぱり彼女はこのまま行けば、一生人前では仮面姿のままだ。
手術で顔の大火傷の跡をどうこうするのは、彼女が決めることだろう?」

確かにそうだが…。


「六道はどうなった?」
御堂は思い出したかのように聞いた。
「怪我が回復次第、取り調べすると西園寺が言ってた。六道も病院にいるよ。鼎とは違う病院な。
鼎は隣の組織直属病院にいるから」


「……鼎の怪我、どれくらいなんだ?」
御堂は深刻そうに聞いた。

「軽傷だよ。六道に暴行受けたわりには急所を外してたっていうから、大事には至らなかったってよ。打撲はひどいがな」


あんだけ殴られたり蹴られたのに、程度は軽いのか…。
目のダメージが心配だ。室長が仮面をアップデートするの、数年ぶりなんじゃあ…。


「鼎は回復しつつあるから、そう心配するなよ」



――体の痛みは消えたが、仮面なしだとかなりキツい…。

組織直属病院の病室。まだ彼女にはアップデートされた仮面がないため、応急措置で目の保護を優先しているが不便そう。


声がした。彩音の声だった。足音が自分のベッドに近づいてくる。

「室長が仮面の目元のレンズをアップデートしてるから、まだ少し待って欲しいって。
今、鼎は目隠し状態だもんなぁー」
「アップデートしないとならないのか!?」

「目の部分は高性能レンズになるって聞いたよ。鼎の目の機能を補助する役目もあるからね」


まだ少し、不便を強いられることになるのか…。
目隠し状態はキツいな…。



畝黒(うねぐろ)家。


「矩人(かねと)、失敗したようだねぇ。イーディスの始末に失敗するなんてな…。警察は動いているようだよ。どうすんの?」

當麻はじわじわ圧をかける。矩人は証拠を残さないようにしていたのだが、不安になってきた。


「もう1度、チャンスを下さい!畝黒家のためならなんなりとしますから!」
「なんでもするのかい?」
當麻、不穏な笑顔を覗かせる。

「…します。これが最後のチャンスですから」


「失敗したら終わりだからな」
當麻は冷たく言い放った。



晴斗はこの事件をニュースで知り、鼎を心配している。

鼎さん…大丈夫じゃないよね…。しばらく会えないか…。
彩音さんから連絡入ったけど。



八尾は宇崎がいる研究室を訪ねた。

「し、司令…司令補佐は大丈夫なんですか!?」
「怪我自体は軽いよ。ただちょっと問題が出てきてしまって、仮面のレンズをアップデートしなくちゃならなくなったけどね」


アップデート…?


「八尾、そんなに暗い顔するなよ。鼎は戻ってくるから」
「それならいいんですが…」


八尾は不安だったらしく、同じ新人隊員の音羽と一緒に来ていた程。
八尾と音羽は仲がいいらしい。


「八尾と音羽は自主トレしてたのか?」
「仁科副隊長が自由にさせてくれて…。
『みんな気になってて、それどころじゃないでしょう』って…」


仁科のやつ、新人隊員のことを気にかけてるな…。
あの事件があってから、明らかに新人隊員達は落ち着かないように見える。

落ち着いてるのは吾妻と氷見くらいだろうな。



宇崎はなんとかして、鼎の仮面のアップデートに成功。時間はかかったが、これで少しでも良くなればいいんだが…。

彼女の火傷で深刻な目のダメージを治療出来ればいいのだが、まだ治療方法がないのがもどかしい。
ゼノク医療チームは治療のために動いているようだが…。


彼女は最初は慣れないかもしれない。レンズが高性能だから、初めは少し酔うかもな。
目の補助機能を搭載したが、ちょっとした精密機器になってしまったな…。


簡単に割れないようにさらに仮面自体もアップデートはしてあるが、あくまでも軽く丈夫にしているのはそのまま。
じゃないと彼女に負担がかかってしまう。


「彩音、来てくれる?」
宇崎は彩音を司令室に呼んだ。


彩音は宇崎から丁寧に箱に入った鼎のアップデートされた仮面を受け取る。

「アップデート版が完成した。以前よりも割れにくく、なおかつ目元のレンズは高性能。彼女の意思でピント調整も自動で出来る。
見た目は同じだが、鼎からしたらだいぶ見やすいはずだよ。
仮面の裏側を見るか?ここがこうなっているから充電する必要はない。鼎用のプログラムを組み込んだからね。パッと見わからないだろ」


「では、渡してきます」
彩音は司令室を出た。



組織直属病院。鼎は彩音からアップデートされた白いベネチアンマスクを受け取り、目隠しを外す。やけに眩しい…。目隠ししている間、ずっと目を閉じていたからか?
彩音は鼎にアップデート版の仮面を手慣れた様子で、優しく着けてあげた。


「室長からでアップデート版はレンズが高性能になってるって。最初は少し酔うかもと注意してた。
目の機能を補助するようにしてるから、慣れるまでちょっとかかるかもって。鼎用のプログラムを組み込んだとか言ってたよ。精密機器みたいな感じになっちゃったけど、充電する必要ないって」
「室長、そんなことをしていたのか…」


「鼎が心配なんだよ。目のダメージも若干進行しちゃったから余計にさ。
2度とあんな状況はないと思うけど、無理したらダメだからね…。失明したくはないでしょ…」

「…わかったよ」



「室長、鼎にアップデート版の仮面を渡したって?完成早っ!」
そう聞いたのは御堂。

「彼女に関しては早急にしないとならないからな。研究者魂が燃えたよ。
後日、同じもののスペアも作るけどね」


あんなにも燃えてる室長、初めて見た…。


「鼎はまだ回復してないから、そっとしといてくれよ。病院では彩音が時々会ってるからね」

「わかったよ」
御堂は複雑そうだが、そう言うしかなかった。



第10話へ。…10話はいつになるんだろうか…。