外れもの同士二人きり *ティキラビ
2020/12/25 00:33
ワイワイとお祭り騒ぎ。厨房メンバーが腕によりをかけて作った豪勢な料理がテーブルに並び、みなうまいうまいと口々に言いながらそれを口に運んでいく。
今日はクリスマスだ。黒の教団では『家族』のほぼ全員が集まって、パーティーを開いている。
ラビが教団にやってきてから2回目のクリスマスパーティー。今年からはアレンが加わり、彼の大食いは去年よりも多く用意された料理をことごとく消していった。
「ジェリーさんの料理やデザートは最高ですね! ぼく、こんなに美味しいの初めて食べました」
目を輝かせながら、アレンが言う。すると、「アレン、俺たちにも残しといてくれよー」と他のメンバーたちの声が上がった。
ラビは彼らとともに笑いながらその光景を眺めていたが、ふっと彼は表情を消す。
「ラビ? どうしたの?」
隣にいたリナリーがそれに気づき、心配そうに尋ねてきた。彼は
「ちょっと、アレンにつられて食べすぎたみたいさ。部屋で休んでくる」
と答えた。
「そうなの? 無理し過ぎよ。あんだけ食べられるのはアレンくんが特別なんだから」
「はは、そうさね。次から気をつける」
「ゆっくり休んでね」
ラビはリナリーに一つ手を振って、賑やかなパーティー会場から抜け出した。そして、一人廊下に立って、はぁと、息をつく。
(家族、ねぇ……)
祭りは好きだが、どうもクリスマスは慣れない。傍観者であるブックマンにとって家族など存在しない。彼らはただのインクであって歴史を綴る材料に過ぎない。
ラビは口の中に言いしれぬ苦味を覚え、靴音を響かせながら自室に戻る。世界中の本や新聞が乱雑に積み重なった上にある椅子にドサリと座り、その背にもたれかかって頭を後ろに垂らす。
ふと、逆さまになった視界に影が一つ。ハッとラビが目を見開き振り返ると、そこには男――ティキの姿があった。
「やぁ、ラビ。教団ではパーティーはやってないのか?」
にこにこと、ティキが笑いながら尋ねてくる。
「抜け出してきたんさ。あんたこそ、パーティーをやってないんか?」
「俺も抜け出してきた、お前に会いたくなったから」
ギザなセリフに「何だそれ」とラビはプッと吹き出す。
「あとで千年伯爵に怒られないんか?」
「あー、ノアはクリスマスを祝わないぞ。パーティーをやってたのは、孤児仲間とだ」
確かに、神と敵対する立場のノアがその誕生を祝うと言うのもおかしな話か。ラビは彼のもう一つの居場所である孤児仲間を思い出す。
「悪いやつ、小さい子がいるんだろ? かわいそうじゃんか」
「後でプレゼントでもおいておくよ」
「サンタになるつもりなんか。あんたってバレバレさね」
話が途切れ、しばしの沈黙。家族。ティキには家族がいる。血が繋がっていなくとも、深く結ばれた家族が。
「どうしたんだ?」
不思議そうにティキが尋ねてくる。ラビは、んー、と声を漏らした。
「ブックマンには仲間もいない、家族と言えるやつもいない。だから、こういう日はモヤモヤするんさ」
彼に自分の思いを吐露する。ログの枠の外にいる彼には、いつもぽろっと本音を口に出してしまう。
「その気持ち、分からなくはないな」
「ティキには家族がいるだろ?」
ティキはラビの言葉に首を振った。
「ノアも、白の仲間も、本当の家族じゃない。今のお前と一緒だよ、俺も」
ラビはハッと彼を見つめた。彼はニッと笑って口を開く。
「だから、似たもの同士、二人でいれば気が晴れるかもしれないぜ」
本当にそうなのかもしれない。それとも、彼の言葉はただの慰めなのかもしれない。
だけど。
「そうさな」
ラビも彼と同様に笑ってみせる。そして強く頷いた。
ティキがラビに向かって右手を差し出し、ラビは彼の手をとった。そして、二人は窓から雪降る空に飛び出していった。