2014.11.23 07:44 [Sun]
すべてはここにある
薄暗い3Z銀新
「ずっとここにいたらいいじゃん」
帰りたくない、と言った新八に対して、銀八はおどけたように笑った。
「…それも良いですね」
銀八の赤い瞳は柔らかな弧を描いていたけれどその奥にはどろどろと冷たく濁った執着が覗いていた。そのことに新八は気がついていたし、新八が気がついたことに銀八は気がついたはずだった。
ぱちん、と音がしそうな瞬きをして、新八はゆったり微笑んだ。銀八が伸ばす腕に引かれるまま身体を逞しい胸板に預け、二人がけのソファへ倒れこむ。銀八の首へ腕を回した。首筋へ頬擦りをして、ぎんいろの襟足へ鼻を突っ込んだ。
よるのにおいがする。
囁くと、男は身体を揺らしながら笑った。
「あーあ、閉じ込めちまいてえなァ」
「それも良いですね」
乾いた大きな手のひらに片頬をそっと撫でられて、新八は目を閉じた。
お互いに嘘つきなのは今更だった。
銀八はきっと臆病だから新八から全てを奪うことなんて出来ないし、新八はおそらく強欲だから全てを引き換えに銀八だけを大切にすることなんて出来ない。
「…せんせい」
「…しむら」
そうやって密やかに囁きあって唇を寄せることしか、二人には出来ないのだ。
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