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跡忍中心の小話
恋人未満な跡忍
「げ、降ってきやがった」
「ホンマや。さっきまで晴れとったんにな」
いきなり大きな音がしたかと思えば、大粒の雨が窓を叩きつけている。
バケツとひっくり返したような大雨に、帰宅途中の生徒が慌てて駆け足で急ぐのが見てとれる。
けど、多分気まぐれな通り雨、天気雨と言った方が正確か。
西のほうには鮮やかな夕陽が見える。
きっと、すぐ止むに違いない。
ホッと溜め息を吐いて、机上に散らばったメニュー表に視線を移す。
向かえに座る忍足は、未だにぼんやりと窓から見える景色を眺めていた。
部活の新しいメニュー表を教室に残って考えていたら、ふらりと現れた忍足。
こいつはいつだって神出鬼没だ。
そのミステリアスな容姿も相まって、一部の女共からは宇宙人やら不思議くんやら色々言われているが、実際の彼は至って単純でシンプルなヤツだ。
今だって、アンニュイな表情で外を見ている姿がミステリアスで、女子たちの心を擽るのだろうが、実際はそんなことはない。
何にも考えてないか、せいぜい夕飯が何か考えているくらいだろう。
忍足は、ぼーっとしてて、何にも考えていないことの方が多い。
ミステリアスでも何でもないのだ。
本当に、この男は何も考えていない。
四六時中寝ているジローの方が、まだ物事をきちんと考えていると思う。
ポーカーフェイス?笑わせるな。
コイツは人よりワンテンポもツーテンポも遅いのだ。
物事を理解するのに偉い時間が掛かる。
だから他人が取った言動や行動を理解するのにも時間が掛かり、本人が理解した頃には他はもう既に違う話題に移っている。
脳内で処理する間、ボーっとしていたり無表情だったりする。
それが、周りには冷静沈着、ポーカーフェイスと評価されているのだ。
実際のコイツはそんな格好の良いものではないのに。
反応こそ遅いものの、ちゃんとリアクションはする。
意外と子供っぽいし、すぐムキになる。
分かりにくいが、表情だったコロコロ変わるのだ。
「オイ、手伝う気がないなら帰れ」
「酷い。ちゃんと手伝っとるよ」
「お前の手伝いは外の景色を眺めることか?」
「雨、止むんかなー思って」
「止むだろ。ただの天気雨だ」
何が面白いのか、俺の返事に忍足がクスクス笑う。
今の返しのどこに、面白い要素があったというのか。
「何笑ってんだよ」
「跡部が天気雨って言うん、おもろいな」
「意味わかんねー」
未だ笑っている忍足に、平部員用のメニュー作成用紙を投げ付ける。
投げ付けて1・2・3秒後。
忍足が吃驚した顔で俺を見つめた。
「これ、俺がやるん?」
「俺を笑った罰だ」
「横暴…!」
「出来たら、ご褒美に行きつけのカフェで茶くらい御馳走してやる」
「………」
また、妙な間が出来る。
きっと、色々考えているのだろう。
「……パンケーキ、あるん?」
「あぁ。あるぞ」
「ミルクティーも?」
「カフェだからな。あるに決まってんだろ」
「………」
忍足は、意外と食べ物に釣られる。
甘いもんとか、子どもが好きそうなものをダシにすると、案外簡単に操れたりするのだ。
「……カレーもあるかな?」
「……さぁ、それはどうだったかな」
どうやらカレーが食いたいらしい。
まぁ別に、カフェじゃなくてカレー屋に連れてってもいいけどな。
「お前の好きなところに連れてってやるよ」
「ホンマ?」
「あぁ」
「じゃあ、美味しい餃子のお店に行きたい」
「オイ、カレーはどうした」
気まぐれで気分屋で、行動が読めないのが忍足だ。
素っ頓狂なことを言うのは今に始まったことじゃないが、悔しいことに毎度意表を突かれてしまう。
そこが、ある意味天才なのかもしれないが。
「まぁ、どこでも良いから、とっとと終わらせるぞ」
話をそこで区切り、悔し紛れに目の前にある薄い唇を奪ってやった。
女のそれと違い柔らかくなく、少しカサついていた。
予期せぬことだったのか、忍足はポカンとした表情で俺を見つめた。
それが何とも間抜けで、悔しさがスッと消えていった。
「……、…」
「……オイ、生きてるか?」
瞬きすらしない忍足の顔の前で手を左右に振ってみせる。
全く微動だにしないから、凍り付いてしまったのか心配になってしまった。
「……レモン味」
「あーん?」
「レモン味やなかった」
「ふはっ」
あまりに乙女な少女染みたことを言うから、思わず吹き出してしまった。
何故笑っているのか分からないのか、忍足が不思議そうに俺を見遣る。
そんな忍足の頭をグシャグシャに掻き回し、作業を再開させたのだった。
FIN
即興小説で書きかけだったものに、加筆しました
ノリでキスしてしまったけど、そこまで深く考えていない二人だったり。
※小話81の続き
※続きにおまけ
「うぅ…、」
窓から差し込んでくる朝日が眩しくて、目が眩む。
目を覚ますと、まず最初に酷い頭痛が襲ってきた。
内側からガンガンと金槌か何かで脳を打ちつけられ、揺さぶられるような、あの嫌な感覚。
頭痛と同時に、激しい胸やけも込み上げてきた。
胃が煮えたぎったように熱い。
漸く自分が二日酔いになっていることに気付いた。
「(せや、昨日は飲み会で…、)」
やけ酒を煽って浴びるように飲んだくれていたのだ。
「(……最悪や…)」
柔らかいシーツに、身を沈める。
そこで、はたと気付いた。
自分の家の、ベッドではない。
俺の家のベッドは、こんなに柔らかい感触じゃない。
「ど、どこやっ…、」
慌てて起き上るも、嘔吐感に襲われ、再びベッドに身を沈めた。
注意深く周囲を見渡す。
豪華なシャンデリアが施された天井、質の良い上品なインテリアの数々…
明らかに、この部屋は豪勢であった。
俺の自宅ではない。
記憶を辿るも、トイレで戻したところまでしか覚えていない。
それ以降の記憶が、ぷっつり切れていた。
あの後、自分はどうなったのだろう…?
内心パニックに陥っていると、扉がガチャリと音を立てて開いた。
驚きながらドアに視線を向けると、ワゴンを押しながら跡部が中に入ってきた。
「お、目ぇ覚ましたか」
「な、なっ…!」
何故跡部がここに?という疑問が、上手く口から出てくれない。
驚愕し切っている俺を余所に、跡部がベッドの淵に腰を掛けた。
何で、跡部がここにいるのだろう?
何で、さも当たり前かのように、ベッドに腰を掛ける?
あぁっ、そんな簡単に人の髪を撫でないでくれ!
言いたいことは色々あるのに、優しく髪を撫でられると、何も言えなくなってしまう。
跡部にとってはただの何でもないスキンシップに過ぎないのだろうが、俺にとっては、そんな行為でも心臓が保ちそうにない。
だって、俺は跡部のことが好きなのだから。
好きな人に髪を撫でられても平然としていられるなんて、そんな器用なこと俺にはできない。
優しく撫でられる感触が、ビリビリと俺に伝わってくる。
「具合はどうだ?」
「……や、ぁ、う…」
そんな優しい声を、柔らかい表情を、俺に向けないで欲しい。
情けないが、何も言えなくなってしまう。
何で、そんな優しく笑い掛けるんだろう?
俺と跡部なんて、別にそこまでの仲ではなかったのに。
息を整え、小さく深呼吸する。
何とか、落ち着きを取り戻したかった。
「……何で、俺ここにおるん…?」
「覚えてねーのか?」
「……トイレに行ったとこまでは覚えとる」
「お前、トイレから出てきたけど、そのまま潰れて倒れちまったんだよ。そのまま抜け出してタクシー拾ったは良いが、お前ん家知らねぇし、ここに運んだ」
「……ここって、」
「俺が宿泊してるホテルだ」
ああああ、何て言う失態だ
穴に入って引きこもりたい
情けなさ過ぎて、涙も出てこない
「……ごめん、」
「別に気にしてねーよ」
肩を竦めながら笑みを見せる跡部は、やはり大人っぽくて、俺の記憶の中の跡部よりも何倍もイイ男になっていた。
そんな何でもない仕草も、見惚れてしまうくらい様になっている。
「ほら、これ飲め。グレープフルーツ絞ってもらったから、二日酔いでも飲めるだろ」
「……ありがと、」
ワゴンの上にあったグラスを受け取る。
柑橘類特有の、甘酸っぱい香りと味がじんわり口の中に広がった。
グレープフルーツの酸っぱさが、二日酔いでムカムカしていた胃を洗浄してくれる気がした。
「お前、酒弱ぇんだな、意外」
「……よう言われる」
「ったく、何で弱いって知っててあんなに飲むかな」
呆れたように笑われるが、言葉を詰まらせる以外術がない。
だって、しこたま飲んだ原因が、目の前にいる男なのだから。
黙って俯いて、グラスに口を付けた。
グレープフルーツの酸味が、ピリリと口の中に広がった。
独特の苦みが、胸にまで沁み込んだ。
「……お前、泣いてたろ」
「……え…」
「トイレで吐いてた時。ドアの外まで聞こえてきたから」
「……さぁ、覚えてへんな」
ギクリとするが、表に出さないようにグッと堪える。
まさか、泣いていたことまで知られるとは。
確かに泣いていた。
そこまでは、覚えている。
でも、しらを切った。
知られるわけには、いかなかったから。
跡部のことで泣いていたなんて。
「……跡部、結婚しないん?」
「え?あー…、……あぁ」
話を逸らすには、あまりにも唐突だったか。
けれど跡部は戸惑いながらも答えてくれた。
「でも、好きな子、おるんやろ?」
「……まぁ、な」
乾いた笑みが、自然と浮かぶ。
ジクジクとした痛みが胸一杯に広がった。
虚しさだけが、俺を取り巻く。
その答えが、俺の失恋を裏付ける決定だった。
「……結婚すればえぇやん」
「結婚は相手がいなきゃ出来ねぇだろうが」
「美佳子ちゃんなら、断らんと思うで?お似合いやし」
虚空の言葉が、スラスラと零れ落ちる。
一言話すたびに、胸の痛みが増す。
こんなの、自分を傷つけるだけなのに。
「何でそんな言い切れるんだよ」
「跡部に想われて、拒むヤツなんておらんやろ」
俺だったら、喜んで受け入れるのに
心の中で、ポツリと呟く。
伝えることが出来ない想いが、燻って心の底で焦げ付いた。
「そうか?」
「跡部に好きって言われたら、誰だって嬉しいやろ」
「ふーん」
ギシッとベッドが軋む音が響く。
何を思ったのか、跡部がベッドに乗り上げてきた。
「跡部…?」
「俺が口説けば、落ちると思うか?」
「……せやね、跡部なら」
そう告げると、クスリと笑う声が聞こえた。
あぁ、跡部は好きな子を口説き落とすのか。
その優しい笑みで、甘い声で、色気たっぷりの雰囲気を漂わせて。
俺じゃない違う人に、甘い言葉を囁くのか。
あの綺麗で洗練された、美しい美佳子ちゃんに、好きと告げるだろう。
美男美女の二人だ。
お似合いのカップルになるだろうな。
あぁ、胸が痛い。
ジクジク傷む。
心が軋んで、悲鳴を上げている。
独りでいたら、とっくに声を枯らして泣き叫んでいただろう。
「……忍足、」
「なん、…っ…」
名前を呼ばれて反射的に顔を上げると、意外と近くにあった端正な顔立ち。
近すぎる距離に、息が詰まってしまった。
「ちょ、ちょおっ…」
「俺、本気でいくからな」
「……へ?」
「お前のこと、本気で口説くから」
「な、なっ…」
至近距離でパニックに陥っている俺とは正反対に、どこまでも飄々としている跡部。
言われた言葉は、よくわからない。
彼は、何を言っているのか。
本気って?口説くって…?
「ど、どういう…、」
「そのまんまの意味だ」
「え、えっ…」
「おっと、時間か」
腕時計で時間を確認した跡部が、スルリとベッドから下りた。
状況が飲み込めない俺は、置いてけぼり。
「悪い、これから少し仕事で出なきゃいけねぇんだ」
「え、えっ…」
「そのままゆっくりしてろ。あ、間違っても帰るなんてアホなことすんなよ?」
「ま、待ってや!」
そのまま部屋を出て行こうとした跡部を、慌てて引き留める。
あまりにも早急で予想外過ぎて、頭がついていけない。
「続きは帰ってから、な?」
「なっ…」
「あぁ、それと、俺、美佳子が好きなんて一言も言ってねぇからな?」
「え…?」
言いたい事告げ、跡部は今度こそ部屋を出て行った。
パタンと閉まった扉の音が、部屋に鳴り響いた。
「え?え…?」
好きな人、美佳子ちゃんじゃない…?
じゃあ、跡部の好きな人って…
「訳、わからん…」
家主のいない部屋に、ポツリと呟かれた言葉が消えてゆく。
色々想定外過ぎて、訳が分からなさ過ぎて、頭がパンクしそうだ。
「……ハァ、」
溜め息を一つ吐いて、ベッドに沈み込んだ。
柔らかいシーツが、優しく俺を包んでくれる。
取り敢えず、寝よう。
眠気も二日酔いもすっかり吹っ飛んでしまったけど。
眠って、もう一度考えよう。
そして、戻ってきた跡部に、もう一度きちんと説明してもらおう。
堅実逃避という名の眠りにつくため、無理矢理目を瞑った。
FIN
→おまけ
天然×ムッツリな跡忍
とある部屋に閉じ込められ、監禁された跡忍
性 別 | 女性 |
地 域 | 北海道 |
系 統 | いかつい系 |