時事ヘタ
【パラダイムシフト・事の根】
2020/08/06 17:21
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(2020年7月14日 17時21分 投稿作品)






【パラダイムシフト・事の根】



パラダイムシフト(英: paradigm shift)とは、その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することをいう。パラダイムチェンジともいう。
パラダイムシフト - Wikipedia









米:中国と手を組むなんて、日本は裏切り者なんだぞ、見損なったよ!
日本は絶対にアメリカを支持してくれるって信じていたのに、赦せないんだぞ!


資料を纏めながらアメリカは憤りの言葉を吐き続けていた。
同じく資料を纏めながらイギリスが窘めている。


英:短絡的な判断は禁物だぞ。
日本政府は同盟国のアメリカを選ぶと言っていたじゃないか。
日本が中国と行動を共にしたからといって、日本政府が立場を変えたわけじゃない。
日本と日本政府…、嗚呼ややこしい!
あー、つまり『菊』と、日本政府の動きを同一に考えるのは危険だぞ!


アングロサクソン兄弟の遣り取りを小耳に挟みながらも、忘れ物がないか確認し終えたドイツはG7メンバーに声を掛けた。


独:他に用件がないようなら失礼する。

英:あ、ドイツ、頼みがある。

独:何だ?

英:明日はプロイセン…『ギルベルト』も同行してもらえないか?
一緒に来ているんだろう?


確信を持ってそう言えるのは、会議が終わるや否やフランスがそそくさと退出したからである。
悪友と言われる仲であるスペインのアントーニョとギルベルトの三人で出掛けるのは恒例のことだから察するまでもない。


独:兄貴に? 何の用だ?

英:御茶会の誘いだ。

独:御茶会?

英:折角だからギルベルトとも交友を深めておきたい。


少し考えてからドイツは応えた。


独:なら、招待状を書いて貰いたい。

英:招待状って…、そういう堅苦しいものじゃないんだが?

独:あー、自分からは言いにくいんだが…、事この件の関してはドイツの立場は微妙だ。
メルケル政権もドイツ産業界も中国寄りなのはわかっていると思うが…?


ドイツの目ががチラリとアメリカを見た。


英:トランプ大統領と折り合いが悪いのはメルケル首相だけじゃないだろう。
フランスのマクロン大統領やカナダのトルドー首相も似たり寄ったりだ。
だが、事この件の関してはフランスもカナダも協力の意思を示しているし非難声明も出している。
一国を担う首相だからこそ、私情は捨てるべきだと思うが?

独:正論ではあるが、そうも行かないのが政治の世界だ。

英:で、メルケル首相の事情とギルベルトを呼ぶことと何か関係があるのか?

独:兄貴は何事にも遠慮のない性格だから、メルケル首相にも正論で意見を言うものだから色々とな…
まあ、それは兎も角、引退したとは言え軍国の誉れあるプロイセン王国の化身である兄貴の動向は軽々しく扱えるものではない。
事前に予定されていた事なら問題はないんだが、急な招待に応じるにはそれ相応の手続きが必要ということだ。

英:成る程、察しろということか。
了解した、招待状は秘書のハワードに届けさせる。


ドイツは頷いて会議室を出て行った。
それを目で追いながらアメリカが近づいて来た。


米:どういう事だい?
ギルベルトは年中何処かにふらっと遊びに行っては数日滞在しているじゃないか。
菊の処に遊びに行くと大抵ギルベルトと遭遇するんだぞ。

英:…潮目が変わったということだ。

米:潮目って?

英:『パラダイムシフト』
潮目を変えたのはお前だよ、アメリカ合衆国殿。


夕飯奢ってやるぞと言ってイギリスはアメリカを促した。
wow! 本当かい、早くイギリス!
子供のようにはしゃぐアメリカ合衆国の大きく力強い背中を見遣りながら、イギリスは一人ほくそ笑んだ。















**********




G7メンバーが顔を揃えるのは午前中のみで、午後からは個別会談に時間が当てられていた。
会議は初っ端から紛糾した。






米:なんで君は混ぜっ返すんだい!
これは正義の戦いなんだぞ!

日:何が正義ですか!
アメリカが掲げて来た正義ほどいい加減なものもありませんよ!
いいですか、100人いれば100通りの正義があるのです!
正義という概念が如何に無意味で説得力のないものかわからないのですか!?
あなたが掲げる正義はあなただけの独り善がりにしか過ぎません!
私は日本は、アメリカの正義を認めません!

米:正気かい!?
香港やウイグル、チベット人たちの人権を守る為の戦いなんだぞ!
これが正義じゃなくて何なんだい!?

日:人権を一番ないがしろにして来た国が人権で正義を語るなと言っているのですよ!
だいたいチベットやウイグルの人々をこうした境遇に追い込んだのはあなたでしょう、アメリカ合衆国!
我が日本国に敵対するのと引き替えに中国に呉れて遣ったのですよね!?
何の権利があって独立国を他国に呉れて遣ることが出来るのか、法的根拠を示していただけますか!

米:と、特使を派遣したんだぞ!
でも、説得に応じなかったんだ、だから…!

日:『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』
日本は憎んで余りある敵だから、『悪の枢軸』だから、日本に情け掛ける国は赦さないと?

米:時代がそう言う時代だったんだ、だから仕方ないだろ!?
俺はちゃんと特使を派遣した!
考え直す機会を与えた!
遣るべきことは遣ったんだ!
俺だけが悪いって言うのかい!?
日本だって、いや、日本こそ何もしなかったじゃないか!


アメリカは癇癪を起こした子供のように怒りを爆発させた。
日本はストンと椅子に腰を落とし、一つ大きく溜め息を吐いた。


日:…アメリカ合衆国、あなたの国内で大規模な黒人暴動が起こった理由がわかりますか?
この際、中国の工作とか偽旗作戦とかはどうでもいいのですよ。
片や我が国でもアメリカの暴動に託けた黒人デモが起こりましたが、不発に終わりましたよ。
何故なら、我が日本には黒人差別などありませんから。
燃料がないのに火を点けようとしたって燃え上がるはずがないのですよ。
つまり、そう言うことなのですよ、『事の根』は。

米:事の根?

日:ウイグルもチベットも、欧米白人国家の『事の根』故の犠牲なのです。
彼らが白人であったなら…、肌の色が黄色でなかったら…、『呉れて遣る』ことなど出来なかったはずです。
それとも、アングロサクソン以外は人間ではないとでも?

米:っ…

日:我が国に2発もの原爆を落としたのは…、いえ、落とすことが出来たのは『事の根』の故ですよね?
私の肌の色が白かったなら、少しは躊躇ってくれたのでしょうか、イギリス連合王国殿?


日本の視線がイギリスへと問い掛ける。


英:……


イギリスは何の感情も見せぬまま日本の視線を受け止めたが、それだけだった。
日本はゆっくりと視線をフランス、ドイツ、イタリア、カナダへと移して行き、最後にアメリカに向けた。
アメリカは両手をテーブルの上で組み、視線を落としていた。
何かを考えるような、或いは何かに耐えるようなそんな印象を感じさせた。


日:何方も発言なさらないようでしたら、これでお開きとしましょうか。

米:…戻れって?

日:……


アメリカの手が拳を握った。


米:あの時に戻れば…、日本が提案しアメリカが拒否したあの決議を遣り直せばいいのかい?

日:民主主義を標榜する国なら、『人種差別撤廃提案』が賛成多数であったことを尊重すべきでした。
全会一致でなければならないと突然ルールを変えて否決した。
それがあなた方白人国家の正義なのでしょう?
如何に正義が、自己都合のいい加減なものであるかを思い知らせてくれた一事でしたよ。
そうそう、オリンピックやスポーツ大会なども、白人が勝てなくなると自分たちが勝てるようルールを変えましたよね?
それで何度割りを喰わされたことか。
あなた方白人国家には、オリンピック精神もスポーツ精神もないことがよくわかりました。
初めから自己都合な国益しかないのなら、仰々しいお為ごかしなど並べ立てないでいただきたいものですね。
意味のないオリンピック憲章など返上しては如何ですか?

独:…あー、日本、その、少し言い過ぎではないか?

日:本当のことでしょう、ねえ、アメリカ合衆国殿?

米:……

日:誤解があるようなので言っておきますが、『人種差別撤廃提案』否決が問題なのではありません。
『人種差別撤廃提案』を提議しなければならなかったこと、それ自体が問題だったのです。
取り立てて言うならば、アメリカ合衆国殿?

米:な、何に?

日:アメリカ合衆国の成り立ちを思えば、中国の人権侵害を責める立てる権利が何処にあるのでしょうか?
インデアン虐殺に黒人奴隷、人種差別、実に誇るべき歴史ではありませんか。
中国が現在進行形で行なっている人権侵害と何が違うのですか?
他民族であるインデアン虐殺はホロコースト(大量虐殺・絶滅政策)ではないのですか?
今、彼らは何処にいて、何人が生き残っているのですか?
北米アメリカ大陸は彼らのものだったのではないですか?
彼らが独立したいと言ったら、勿論領地を返して独立させて上げるのですよね?

米:…俺に、消えろって言っているのかい?

日:いいえ、あなたが自己都合の正義を振りかざして何をしようとしているのか教えて差し上げているだけですよ。
私は中国が、ウイグルやチベットの人々に対して行なっているホロコーストを見過していいとは思いません。
そうであるならば、欧米白人国家がこれまで犯してきた植民地ホロコーストを見過ごしていいとは思えないのですが?
それが、公平公正と言うものだと思いませんか?


英:事後法で裁けと?

日:おやおや、我が国を事後法で裁いたのは何方でしたっけ?
有りもしなかった罪をなすりつけられ、千を超える子供たちが処刑台に送られたことをご存じのないとでも?
有色人種だから…、白人国家ではないから、事後法で裁いても構わない。
でも、白人国家様は現代法に則って丁重に扱えと?

英:誰もそんな事は言っていない!

日:ええ、そうでしょうとも!
肌の白い人間は選ばれた人種だから何事も特別扱いするのは当たり前ですものね!
そして、黄色い肌の連中は人間ではない、猿以下だから何をしても構わないのですよね!
それが、昔も今も変わらないあなた方のルールであり、正義なんですものね!

英:……

日:…皆様は認めたくようですから敢えて申しますが、イエス・キリストは白人ではありませんよ。
イエスはセムの子孫、白色人種のヤペテの子孫ではありませんよ。
その事実から目を背けてはいませんか?
あなた方はイエスを差別した。
猿以下と見下げ足蹴にしたのです。
あなた方はイエスを処刑台に送ったパリサイ人!
全員呪われるがいい!







『菊』

ふわりと抱きしめられ、大きな手が目を覆った。
よく知っている慕わしい人の声が耳元で囁いた。


『何て顔をしているんだ、菊』
『よく頑張ったな、もう十分だ』
『これ以上お前の心を穢すな』




目を覆う手の隙間からつーと流れ落ちるものがあった。




ああ、理解者がいた。
嵐の大海原に投げ出され行方を見失っていた私に、
羅針盤を与えその見方を教えてくれた。



あなたは灯台
あなたは船





シュテルネンヒンメル…

バカ、Sternenhimmel(星空)だろ




キルチュブリューテ?

Kirschblüte(桜の花)だな





ふふふ
ケセセセセ






















〈続〉




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