大丈夫、大丈夫って言ってね、
本当になるように。
祈った。

変わるものと変わらないものの境界線は、人によって違う。
たとえあなたが「変われるよ」って言ってくれても、なんだか余計に寂しいだけだ。

こんな夜は、お気に入りの歌を思い出そう。
幸せはね、どうしても必要なものじゃない。
幸せなのは当然のことではないから、だから大丈夫。
天使の笛を吹いて。

一度きりの魔法は、何のために使う?


正しいことは、苦しい。
空は飛べないし、走れもしない。
綺麗な音も出ない。
神様、聞いてたのと違います。

大丈夫。
幸せっていうのは、もともと世界にあんまりないものだから。
与えられなかったからと言ってね、それが特別なことではないよ。
安心して眠ろう。

唇を震わせて、
銀色の笛に、息を吹き込む。


綺麗な言葉も美しい絵も、世界に溢れているのだから、
ぼくじゃなくてもいいよな。

他の誰かにこの道を譲って、
何もない世界に行く。
涼しい、心地よい風の吹く丘の上で、
きみの好きな花を手折って。
ここから連れ出しておくれよ。
……なんてね。


踏切の音が止んで、ゆっくりと目を開ける。
知らない町の、寂れた景色。
先程から道に迷っているはずなのに、
なぜか怖くはなかった。

正面の通りをまっすぐ歩いていけば、
突き当たりで海に出ますよ、と
立ち寄った小さなコンビニで、アルバイトの少年が教えてくれる。
谷の下にも、さらにその向こうにも、まだ家があり、人が住んでいる。

やがて陽が傾けば、太陽は水面に差し掛かり、反射して、海を橙色に染める。
一日の終わりと始まりに、堪えきれず溢れ出すような橙色。

きみはその景色を綺麗だと思うだろう。
いつか、天国への切符になる景色だよ。
今は、ただまっすぐ道なりに進むんだ。
それで大丈夫。


大丈夫、大丈夫って、
本当になるように、どうか。

それぞれに、それぞれが一人きり。
見えない聖域で護られたぼくら。
限られた時間の、限られた安寧の中、
切ないメロディが、きみとぼくと世界を繋ぐ。


神様/聖域/アルバイト