薬パラ 付き合った後
※注意 薬の依存について少し書いています
病気の症状、メンタルの事などが苦手な方は読まれない様お気を付けください。
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「ねぇ、ルルーシュ」
それは妙に真剣な声だった。
「何だ」
振り返れば、切羽詰まってるといった感じこそないが、真剣な表情でスザクが俺を見つめている。
「あくまで純粋な疑問なんだ。もし答えづらかったら、答えなくていい」
「あぁ」
普段ヘラヘラと笑っている事が多いだけに、そう言われるとこちらまで何だか緊張してしまう。
一体何を聞きたいんだ、スザクは。
最近ゼロと連絡を取り合っていないから、嫉妬の線は薄いだろう。
いや、スザクだからわけのわからない所で何か思う事があったのかもしれない。
彼に気付かれない様色々と考えていると、ゆっくりスザクの薄い唇が動いた。
「ルルーシュ、月曜日と金曜日は調剤のヘルプに入るでしょ。その時、薬を飲みたいって思う事はあったりするの」
あぁ、何だそんな事か。
無駄に詮索する必要もなかった事に、俺は思わず笑ってしまう。
「へ、ルルー「ないな、全くない」」
笑いだした俺をどう思ったのかは分からないがうろたえ出すスザクに、ハッキリ言ってやった。
「確かに俺は薬を手離せないが、正直薬は嫌いだ」
「え」
そういえば、スザクが医者というのもあってこういう話題はわざわざしていなかった事に今更俺は気付いた。
何が原因で不安がっているのかは知らないが、ちょうどいい機会だろう。
スザクが座っているソファの空いている部分に腰掛け、俺はもう一度言った。
「薬を扱っているが、俺は薬など大嫌いだ。だからこそこの道を選んだというのもあるんだがな。俺の使っている様な薬は依存性の強いものが確かに多い。だがこれははっきりと言える」
数年前ならば、ゼロ以外の男の手など俺から触るなんてありえなかった。
薬で無理やり抑えつけても、生理的な嫌悪は変えられない。
そうするぐらい俺も真剣なのだと伝える為、スザクの手を握りながら俺は話を続けた。
「薬は、あくまで手段だ。俺はずっとゼロに依存してきた。壊れても尚、それは変わらなかった。薬なんてゼロに無理やり飲まされなければ、最初の内はこっそり吐いて飲まない様にしていたぐらいだ」
「ルルーシュ」
「飲まなければ不味いとは思うがな。飲まないと不安だと思った事は一度もない。だから、そんな憂いは必要ない」
オーバードーズだって、あくまで手段なのだ。
この世から自分をなくすために一番手っ取り早く苦しくない方法だと思ったからしたまでで。
もしリストカットが一番楽で早いなら、そちらを選択するだろう。
俺にとってあくまで、薬などそんな程度なのだ。
「で、何故そんな事をいきなり聞くんだ」
ま、そんな事よりもだ。
スザクがこんな事を聞くだなんて、恐らく何かあったのだろう。
そちらの方が心配で俺は尋ねた。
「俺が、嫌になったか」
醜いほどその声は震えていて、情けないものだ。
ゼロへの執着を止めてくれた彼が居なくなったら、と思うと息が上手く出来なくなりそうで、
「そんな事ないよ!ルルーシュの事嫌になるわけ絶対にない!」
その事でやっと、俺はきちんと息を吐く事が出来た。
いつの間にか俺が握っていない方のスザクの手が背中に回っていて、優しく擦られる。
「大丈夫かい、ルルーシュ。息を吸って、吐いて。そう、出来るだけゆっくり」
その声はいつもの彼のもの。
何とか安心できた俺は、彼の言葉に合わせて呼吸を整えた。
最近は意識のブレが大分小さくなってきたのに、くそ。
「変な質問してごめんね。心配になったっていうとちょっと誤解を招きそうなんだけど、何ていうか。えっとね」
背中を撫でていた手に、力が込められる。
そうしてスザクの胸に引き寄せられた俺は、されるがまま彼の首筋に顔をうずめた。
「もしルルーシュが薬を手離せないと思っていたなら、その気持ちを僕に向けたくて」
スザクらしい、意図の分かり辛い文章。
だが何年も一緒に暮らしている俺にとってそれは、笑えるぐらい簡単なものだ。
「呆れた、まさか薬に嫉妬していたのか?」
はぁ、と息を吐くぐらい許してくれるだろう。
こいつは何と無機物に嫉妬をしていたのだから。
「え、えへへ、うん。薬に依存するぐらいだったら、僕に依存して」
「とんでもない馬鹿だ」
「ルルーシュ限定だけどね」
でも安心した、とスザクが嬉しそうに声を弾ませる。
それが本当に幸せそうで、だから俺はそれ以上詰まる事も出来なくなってしまった。
惚れた方が負けというのは真理だな。
「馬鹿」
「ごめん、心配かけて」
「大馬鹿」
「ごめんね」
「俺を不安にさせた罰として、今週中に天使のプリンを買ってこい」
「了解。今週中ね」
だが、スザクに気付かれるなんてそんな事、俺のプライドは許さないから、
「スザク」
「うん?なぁにルルーシュ」
「馬鹿」
「僕は愛してるよ」
愛してるなんて絶対に言ってやらない。
つまりはバカップルというわけです