「エースのバカチーーンッ!!!」
「な゛ッ?!!」
ドゴッと鈍い音と共に、エースの体が砂浜へと倒れた。
周りの男性陣は目を見開いてその様子を見遣る。
「来希おまっ…どこで跳び蹴りなんかを…!?」
「サンジくんから習った。」
「えっ、おれ!?」
「サンジてめェ余計な事を…!」
言いながら起き上がりそうになるエース。
「ウソ。」
言って、エースの上に馬乗りになる。
せっかく跳び蹴りが成功したんだもん、まだ起き上がっちゃダメ。
「っ、来希…!?」
人前で馬乗りになったからか、はたまた跳び蹴りの件で驚いているのか、エースが動揺した様子で名前を呼ぶ。
「…小学生の頃1回だけクラスの男子に跳び蹴りした事があって、久々にやってみただけ。」
サンジくんは無関係である事をきちんと説明しておく。
この技は正真正銘、来希が小学校中学年の時に、来希に変なあだ名を付けた男子を追いかけ回していて…捕まえる手段の一つとして覚えたモノだ。
跳び蹴りした時に丁度隣のクラスの担任に見られちゃって注意されて以来封印してたけど、まさか社会人になって再び食らわす日が来るとは思わなかった…。
って、跳び蹴りはどうでもよくて!!そんな事よりも!!!
「エースのバカ…。」
キッと来希の下にいるエースを睨みつけ、本題に入る。
「姉ちゃんとくぅしゃんの水着姿に見とれるなんてサイテー!!」
「ッ、おれは来希以外眼中にねェ!!」
「2人が上着を脱いだ瞬間喉を鳴らしてたくせに!」
「あれは…!」
「やっぱりエースも胸がおっきいレディの方がいいんだ!!どうせ今回来希に水着になるなって言ったのだって、貧乳な嫁の水着姿なんて旦那として恥ずかしくて人様に見せらんないからなんでしょ?!」
「はあ!?んな訳ね…、」
「ふんだ…来希だってビキニとかビキニとかビキニとかっっ!!可愛い水着なんて大嫌いだぁっ!!」
どうせ来希には似合わない…。
せっかくの海だからいつもの来希とは違う来希をエースに見せたかった、けど……着たってお互い恥をかくだけなのは分かりきってる。
だから今回、可愛い水着を買うのは断念したんだもん…。
胸が大きいなら大きいなりに、色々悩みとかあるんだろうなってのは分かってる。
姉ちゃんは何も言わないけど…。
でも、それでも来希はこのちっこい胸が好きじゃない。
大きくなりたかったって心から思う。
あ〜あ、来希は元が可愛い訳でも何でもないんだから、せめて体だけは女らしく…魅力的でありたかったなぁ…。
ないものねだりなんかしても意味ないのにバカだな自分。
うあ…なんか泣きたくなってきた…。
でも、今日はくぅしゃんを泣かす日だから、来希が泣いてる場合じゃない。
「〜〜ッ、エースなんて知らん!!!」
「っ、おい!?来希やめろ…!!」
グッと涙を堪えながらエースから下りて、代わりに砂をかけ始める。
ちょっと砂の中で反省すればいいよ。
来希を傷つけた罰だ。
「……来希、そのままでいいからおれの話を聞け。」
「………。」
体が半分くらい埋もれた頃、抵抗をやめたエースが静かに口を開いた。
「あー…さっきのアレはだな……確かにあの2人の水着姿につい生唾を飲んじまったけど、」
「っ…!」
砂をかける手を早める。
やだやだやだ!!
それ以上何も聞きたくない!!
「初香の妹…エースの話、一応聞いてやれよい。」
「!?」
お義兄さんに両手を掴まれてしまった。
ってか、両腕万歳のこの姿勢、ちょっとマヌケで恥ずかしいんだけど…。
「…アレは、不可抗力だ。つーか来希…お前のせいだ!」
「は?なんで来希のせい!?被害者はこっちなんだけどっ?!」
「…〜ッ!!お前が!!ここ一週間、ヤらせてくれねェから!!」
「な゛っ!?」
ナニ…口走ってんの、このバカ旦那は…!!
「昨夜は…今日朝早ェからってとっとと寝ちまうし、一昨日は早番だから、その前の日までは乙女デーだからって…かれこれ一週間!!おれは!!お前の裸を見てねェし触れてねェッ!!!」
何か言わなきゃなのに、これ以上変な事を言わせないためにも反論しなきゃなのに……あまりの羞恥に声も出ない。
「一週間…お前の裸を見てねェところにいきなり露出の多い水着姿なんざ見せられたら、それがお前の水着姿じゃなくてもちょっと反応しちまうのは仕方ねェだろ!!健全な男の証だ!…つーかあの2人を介して瞬時にお前の水着姿を想像しちまったんだよクソッ…!!」
後半真っ赤になりながら、エースが一気にまくし立てる。
あぁもうホント…どうしてエースはこんなにバカでアホで……だけど愛しくて仕方ないんだろう…。
エースの言い分に呆れたお義兄さんが、来希の両腕を解放する。
いつの間にか、ゾロやスモーカーさん達は火を点ける作業に、ワタワタしていたサンジくんも料理の準備に取り掛かっていた。
…ルフィは最初から一人で浜辺を走り回っていたけれど。
「………バカエース。」
呟いて、また砂をかける。
でも、さっきまでの怒りや嫉妬心はない。
「はは…。」
エースは来希の態度の変化に気付いて苦笑する。
「てかお前…もしかして下着つけてねェのか?」
「へ?」
いきなり何を言い出すかと思えば…。
「いや…さっきマルコがお前の両腕を掴んでる時、シャツ越しにブラの跡とか見えねェなァと思って…。」
「…だってこれ、一応水着だもん。」
「は?」
「一見ただのキャミと短パンだけど、素材自体は水着だよ?普通の水着は着れないけど…海には入りたいから、濡れてもいいようにこれ買ったの。」
「お…おい来希…って事はまさか、パンツも履いてねェのか……?」
「?うん、だからこれ水着だもん、パンツは普通履かないよね。」
ガバッ!!
「うわっ!?」
顔以外来希が頑張って埋めたエースが、一瞬にして砂の中から出て来た。
しかもなぜか砂まみれで抱き着いてくるエース。
「水着は人前で着るなってあれ程…!」
「え…いやだってこれは私服同然…、」
「でも水着には変わりねェ!!今お前は、下着姿でいるのと同じだろうが…!」
「………。」
このおバカさんを誰か止めて欲しいと男性陣に目で訴えるも、見事に全員が我関せず状態。
「あんたら明るい内からナニやってんの…。」
「…エース、料理の準備をしたいから来希ちゃんを借りてくよ。」
結局、助けてくれたのは、砂浜へ戻って来た頼れるお姉様ズ・初香姉ちゃんとくぅしゃんだった。
とりあえず、丸く収まって良かった♪
これで心置きなくくぅしゃんの誕生日をお祝いできるぞっ!!
*END*
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長ッ!!(がびーん)
普段書く小説の3ページ分になっちまったよ…。
くぅしゃんと姉ちゃんが2人でまったりお話している時、ってか2人が手を繋いで海へ走って行った後、砂浜ではこんな事があったんじゃなかろうかと勝手に妄想(笑)
“来希以外に興味がない筈のエースがなぜ2人の水着姿に喉を鳴らしたのか”を考えた結果、こんな理由になりましたとさ。
嫉妬深い来希……いつか捨てられないか心配…。