感染対応策は「諸刃の剣」 過度な自粛が高齢者の健康を悪化させる(上昌広)

4/12(火) 9:06
日刊ゲンダイDIGITAL

 新型コロナウイルス(以下、コロナ)の春の流行が始まった。感染対策の強化が議論されている。実は感染対応策は諸刃の剣だ。最近、このことを考える上で示唆に富む論文が公開された。ご紹介したい。

 それは、3月10日、米ワシントン大学の研究チームが、英「ランセット」誌に発表した論文だ。この研究では、74カ国と地域を対象に、2020年1月から21年12月までの超過死亡が推定された。

 超過死亡とは、過去の死亡統計や高齢化の進行から予想される死亡者数と、実際の死亡者数を比較した数字だ。統計処理により、偶然では考えにくい増加が確認されれば、感染症の流行の影響があったと判断する。ただ、超過死亡は全てが感染症によるものではない。コロナ感染を恐れた受診控え、医療逼迫などさまざまな要因が影響する。

 では、結果はどうだったろうか。まずは、世界全体の解析結果だ。コロナパンデミック下、世界では1820万人の超過死亡が確認されている。実際に報告された死者数は594万人だったから、3.1倍の超過死亡が生じていた。多くの研究者は、検査体制が整備されていない途上国での見落としが多いと考えている。

 では、日本はどうだったろうか。実は、日本の超過死亡数は多い。11万1000人と推定され、確認された1万8400人の6.0倍だ。この数字、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中で最悪だ。

 あまり議論されないが、コロナ流行下、日本では死亡数が急増している。2月25日、厚労省が発表した昨年の人口動態統計の速報値によれば、21年の死亡数は前年比4.9%増の145万2289人で、戦後最多だった。特に、アルファ株が流行した昨春以降、死亡者は急増していた。

 なぜ、死者が増えたのだろう。最も考えられるのは、自粛に伴う高齢者の健康状態の悪化だ。残念なことに、このことを直接的に証明する臨床研究はない。ただ、このことを示唆する研究結果はある。昨年12月、スポーツ庁は全国の小学5年生と中学2年生を対象とした21年度の全国体力テストで、男女とも全8種目の合計点の平均が調査開始以来最低だったと発表した。小中学生の体力がこれだけ落ちるのだから、高齢者の健康が害されるのも宜なるかなだ。

 現に、私の外来にも、コロナ自粛で体重が増加し、高血圧、糖尿病、高脂血症を悪化させた患者は大勢いる。その中には、脳卒中で亡くなった人もいる。

 第6波では、多くの先進国が厳しい規制を課さなかった中、日本はまん延防止等重点措置を発令した。規制により、感染拡大は一定程度、予防できるかもしれないが、高齢者の命を危険にさらす。我々は、このことを認識すべきである。

(上昌広/医療ガバナンス研究所 理事長)