シリウスと彼女が寄り添うように歩くのにも見慣れた、リーマスが切なく顔を歪める事もなくなった。
私は
私は…――
言いたかった言葉は、言えなかった言葉
天気が良かった、だけどリーマスの顔色は悪かった。
それもその筈で明日は満月だから。1週間前から段々と顔色が悪くなって行くリーマスを変に思いつつも毎日を送っているジェームズ達は、いつか満月と彼の関係性に気が付くのだろう。
けれど今はまだ謎のまま、その事に気が付いているのは私だけで良い。
彼女は、気が付いていたのだろうか。それともただ、何も打ち明けてくれないリーマスに抱えきれない何かを感じたのだろうか。
「此処にいたんだ。皆探してたよ」
疲労感の滲む顔に笑顔を浮かべて、リーマスが私の横に並んだ。中庭で空を睨む私を見つけた時、何を感じたのだろう。彼の瞳には恐怖の色があった。
「具合、悪いのね」
「ちょっと、ね」
断定した言い方に苦笑するリーマスは、私に倣って空を見上げた。眩しそうに細められた目は諦めの色に変わっていた。
彼は、私が気付いている事に気が付いたのだ。触れて欲しくない、けれどそのままでいられるはずもない。
そう、言っている気がした。
「生まれつきなの?」
「……いや、小さい頃にね、咬まれたんだ」
躊躇するような沈黙の後、リーマスは本当に小さい声で言った。
「貴方がなんであろうと、私には関係ないわ」
「それは、同情かい?」
冷えきった声に、心が震えた。違う、私は…――
様々な言葉を脳内に並べて、そのどれもが口から出る事なく消えた。
ただ無言でリーマスの隣から去る私を、彼はなんと思ったのだろう。
口をきかなかった、目を合わせなかった。
私達の異変に気が付いてもどうしようもないジェームズ達には申し訳ない事だとは思う、けれどリーマスに関わる事を拒絶された私には静かに待つしか何も出来る事はなかった。
またいつか、彼と話をして、笑って…――
「あいつが具合悪くなるのって、周期的じゃないか?」
私とリーマスが話をしなくなってから、10回目の満月。シリウスが人気の無くなった談話室でポツリと溢した。
とうとうこの時が来たと思う私をよそに、ジェームズは静かに談話室の窓から外に視線を投げた。ぽっかりと浮かぶ満月――頭の良い彼らの事だから、もう答えは出てるはず。
「リーマスは…狼なんだね」
万が一を恐れてか、ちゃんとは言わなかったジェームズに少し感謝しつつも、私に向けて確認を取るような言い方に疑問を抱く。
「お前は、いつから知ってたんだ?」
シリウスにそう問われ、私がずっと前からその事実に気が付いていた事まで見抜かれていた事を知る。
「3年の時…私は空を良く見ていたから」
「そっか、ずっと黙ってたんだね」
責められているような気分になった私は、黙ってうつ向いた。
「俺たちはそんな事であいつと友達じゃねぇとか思わねぇよ!」
そんな理由じゃない、ただ私は…――
「特別になりたかっただけ、ただ好きなだけだったのに……」
思い上がりも良いとこだった、知られたく無い事を知ってもリーマスを好きでいれる。側にいれる人になりたかっただなんて、そんなのは私だけじゃない。
そして、そうなれるのは私じゃない。
「君が言ったの?」
翌日、大広間で昼食をとっていた私にリーマスが言い放った。なんの事、なんて聞かなくても分かった。
「違う…私は」
「楽しい?弱みを握れて」
畳み掛けるように言うリーマスは、怒っているのに悲しそうだった。
私は否定するのも忘れて彼を見上げて、どうしたらその悲しみを取り除く事が出来るのだろうと考えてた。
「なにか、言ってよ…」
「リーマス…」
しゃがみ込むリーマスに手を伸ばせば、触れる直前に払われる。拒絶と救いを求める彼はとにかく危うい。
「ジェームズ達は、そんなの気にしないって言ったんじゃないの?」
リーマスの前にしゃがみそう言えば「噛みついて逃げて来た」と弱々しい声が返ってくる。
雰囲気もそっちのけで噛みついたってお前、なんて考えて、大広間に駆け込んで来たジェームズ達に片手を挙げて場所を知らせる。
「私は噛みつかれようがなんだろうが、リーマスが好きだよ」
ずっと言いたかった言葉をリーマスに告げて、ジェームズ達と場所を交換した。
弾かれたように顔を上げたリーマスがジェームズ達が目の前にいる事に驚いて逃げ出し、さらにシリウスに捕獲される一連の動作を見ながら、私は久しぶりに彼の笑顔を見たような気がした。
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夢ネタリーマスの続き。まだ続くかも?