「作戦変更だ。いちかと梓は彩音に合流するか、本部へ戻れ」
御堂から突如作戦変更が。敵の数に対して戦力過多だと判断した模様。
現に敵の数は5体のままだが、御堂達は計8人と大所帯。ほとんど御堂と囃が戦っているため、いちかと梓を撤退させようとしたわけだ。
囃も仲間の支部隊員をチラ見した。
「戦力過多だな〜。一気に減らすか。和希の作戦変更にこっちも乗るぞ、いいな」
支部隊員達もこれには異論もなかった。人数が多ければ的にされてしまう。敵の思うつぼだ。
支部精鋭で残ったのは囃と鶴屋。鶴屋の護符はバリエーション豊かなため、トリッキーな戦闘スタイル。攻撃範囲も自在。
都内某所Aは御堂・囃・鶴屋の3人で戦闘続行することとなった。残りの支部隊員は一時撤退。いちかと梓は彩音に合流、救護に当たることにした。
都内某所Fも大所帯である。怪人5体に対し、新人隊員10人と仁科副隊長という内訳だ。
新人隊員でもこの状況下で、音羽のように何かに目覚める者とそうじゃない者に分かれる。
仁科はその新人隊員で誰をここに残すか、決断を迫られていた。八尾と音羽は自然と連携している。
「副隊長!どうしたんですか!?なんで戦わないの!?」
八尾は激しい格闘をしながらも聞いている。器用だな…。
それにしても…八尾は天然なのか、ナチュラルに攻撃力が高い。なんなんだ、あのパンチは…。
「氷見、残りの隊員を引き連れて安全なところへ一時撤退して貰えるかな。怖じけづいて戦えない隊員も複数いる。
…ここは俺と吾妻・八尾・音羽の4人で行くからね」
氷見は残りの新人隊員の引率を任された。安全なところへ撤退するにしても、重大任務。プレッシャーがかかる。
この新人隊員の中で戦闘経験者は元自衛官の吾妻と元警察官の氷見だけ。
八尾は天然なわけで戦闘経験は少ないものの、攻撃力は高くのびしろはある。
音羽はこの一連の戦闘で突如、何かに目覚めた。最初は怯えていたのに今や急成長。銃の扱いも慣れてしまっていた。意外なのは機動力である。
吾妻を残したのは彼は肉弾戦特化型。格闘に関しては強い。元自衛官なだけあるが…八尾とタッグを組めば、とんでもない化学反応が起きそうだ。
仁科は本気モードとなる。
「今までの怪人とは強さが違う。これの出番だね」
彼は自分の対怪人用ブレードを静かに抜刀した。
都内某所E。晴斗は何かに気づいた。
対怪人用ブレードを使うと怪人は弱体化するのか、一時的に弱まる。しかし、怪人5体はまだ1体も撃破出来ず。
「桐谷さん・神(じん)さん、もしかしたらこの色違いの怪人の攻略法…わかったかもしれないよ」
霧人達バイク隊は空気を読んだ。
「じゃあ俺達は撤退するよ。撤退というか、救護が追いついてないみたいだから応援に行ってくる」
「渋谷隊長、3人に任せていいんですか!?」
「いいんだよ。人数多くて足手まといになるよりかは、別の方に回った方がいいだろ。効率もいいし」
霧人はぶれない。
本部司令室――
解析班から分析結果が出た。
「補佐、取れますか?色違いの怪人について分析しましたよ」
「何かわかったのか?」
「計15体の色違い戦闘員についてですが…畝黒(うねぐろ)怪人態と密接に関係してることがわかったのよ。
ゼノクの三ノ宮とも連携してるんですが、三ノ宮によれば、東京に出現している怪人のダメージがある程度畝黒に返ってくるらしい。まだ推測だけどね。
もしかしたら色違い怪人は畝黒の分身のような存在かも」
予想を裏切るとんでもない分析結果だ…。
畝黒の分身説。まだ確定ではないが、やはりリンクしてるのか。
少人数となった御堂達は一気に攻勢を畳み掛ける。
「囃ィ!ブレードで叩っ斬れっ!!そのブレードは強度半端ないんだろ!?」
「俺の『蛟(みずち)』を舐めてんのか」
鶴屋はそんな2人をよそに、護符で結界を広範囲に展開。
「囃、結界張り終わったよ」
「仕事早すぎ」
そんな3人の元に、上空から日本刀型ブレードが飛来してきた。ものすごい勢いで。
「うおっ!?なんか飛んできた!?…ブレード!?」
思わずオーバーリアクションをする囃。御堂はそのブレードをキャッチ。
「囃、驚くなよ。これは鼎のブレードだよ」
「鼎…今司令補佐してんだっけ…。戦えなくなったとは聞いたけど、マジだったんか…」
「和希、聞こえるか?」
鼎から通信が入った。
「どうした」
「私の鷹稜(たかかど)を使ってくれないか。解析班の分析結果も出た。
今いる色違いの怪人は畝黒の分身の可能性がある。…まだ確定ではないが」
「ありがたく使わせてもらう。発動させてもいいんだろ」
「当たり前だ。鷹稜は久しぶりの戦闘で血が騒いでいるみたいだよ」
人間態での想像がしやすいよな〜、鷹稜…。
あいつ、ずっと戦闘の機会がなかったから…。
「鷹稜!大暴れするぞ!!」
御堂は鷹稜を勢いよく抜刀した。
彩音と合流したいちかと梓はというと。
「あやねえ!」
「いちか、梓…どうしたの」
いちかはもやもやしながらも正直に言う。
「たいちょーから撤退しろと言われたっす。人数多いから。だからあやねえのところに来たんだけど…」
「このシェルターはほとんど手当ては終わってるよ。次の場所に行こうか。
人手が足りなかったんだ。次の場所はここからちょっと離れてる。そっちはまだ救護が追いついてないみたい…」
「彩音、あたしも力になるよ」
「頼もしいんだね、梓は。鼎…大丈夫かなぁ。彼女からしたら長丁場だから…過酷だと思う。身体のこともあるからね」
彩音はなんだかんだ気にしているようだ。親友のことを。鼎は補佐とは言えども、それ以前に2人は親友同士だもんな…。
あたしの知る悠真はあの事件で姿が変わり果ててしまったが、今では仮面姿を受け入れている。あいつからしたら仮面なしでは人前には出られない。…正直辛い。
「梓、どうしたの?険しい顔して」
「あ…いや……なんでもないよ」
「鼎のことが気になっているんだね」
「あやねえ、きりゅさんは大丈夫だと思うよ…。仲間たくさんいるじゃんか」
北川と陽一は本部へと到着。
これに驚きを見せたのは宇崎だった。
「北川と陽一!?呼んでもいないのになんで来たの」
この問いにあっけらかんと答える北川。
「本部のピンチだからね。ヒーローは遅れてくるだろ?それに紀柳院も気になっていたんだ」
鼎からしたらこれは予想外の展開。北川さんが来るなんて。
「紀柳院。これからは安心していいよ。俺がいるからね。
長丁場は相当キツいだろうに…。見たところ調子はあまり良くなさそうだな…」
北川は鼎の不調を見抜いた。来て数分しか経っていないのに、なんという洞察力。
瀬戸口は鼎の不調に気づかなかった。顔が見えないゆえにわかりにくいのもある。
「北川」って…ゼルフェノア最初の北川司令!?OBが来るとかなんなんだ、この展開。
「陽一」は暁陽一だよね…?えーとゼルフェノア黎明期の隊長だった人だっけ。
なんだかすごい面子…。
「宇崎、本当は戦いたいんじゃないの?君も自作の対怪人用ブレード…作っていたんじゃないのかい」
「き…北川!なんでわかったんだよ!!」
実は宇崎、自分用の対怪人用ブレードを作っていた。
まだ出番はないのだが、かつての同僚にあっさりと見抜かれてしまう。北川には到底勝てない。
陽一は司令室のモニターをずっと見つめていた。
「宇崎。ゼノクの状況を教えてくれ。場合によってはゼノクへ行かないとマズイぞ…!」
鼎は西澤から聞いた戦況を2人に話した。西澤と綿密に連絡していた鼎は宇崎よりもゼノクの状況には詳しかったわけで。
それを聞いた陽一は突拍子のないことを言い出す。
「…ゼノクに行ってもいいですか。ヘリで」
「ちょ…ちょっと待て陽一!?唐突すぎるだろうが!!何の計画もなしに行くのかよっ!!危険すぎる!!」
慌てふためく宇崎。
そこに鼎が口を挟んだ。
「研究施設はゼノク隊員だけで畝黒と交戦している。
長官は負傷したと報告が入った。秘書の南もだ。戦況は劣勢。
畝黒怪人態に関してはまだ情報が少ないが…人間態の倍、威力はあると聞いた」
「宇崎、お前もゼノクへ行けば?陽一と一緒に助っ人として。ゼノク隊員はピンチなんだぞ。
本部は俺に任せなさい。俺と紀柳院で回すから」
司令北川、一時的に復活。
北川の計らいで、宇崎も陽一と一緒に急遽ヘリでゼノクへ行くハメに。
研究施設ではギリギリの攻防が続いていた。
畝黒怪人態は触手を使い、同時攻撃をする。これがなかなか厄介な代物でギリギリと締めつけていく。
「蔦沼にも及ばないな」
二階堂は右腕の戦闘兼用義手を展開し、なんとか触手を切ることに成功するも仲間はまだ触手の餌食になっている。
自由に動けるのは二階堂と憐鶴(れんかく)のみという状況。
憐鶴は対怪人用鉈・九十九(つくも)を発動させようとするも、このまま発動すれば畝黒の触手を介して仲間が感電してしまう。
発動が使えない。
畝黒は触手のひとつを伸ばし、地下へ侵入を試みる。
すかさず二階堂が戦闘兼用義足の仕込み刃を使い、蹴りでぶった切る。
「…侵入させません」
「ずいぶんとお疲れのようだねぇ。義肢のお姉さん。その義手、長官と同じようなものかな?
破壊したら面白そうだ」
憐鶴は九十九を発動せずに触手を次々ぶった切る。だが、触手はすぐさま再生。
仲間達は助かったものの、すぐにまたピンチが訪れる。
二階堂と憐鶴はだんだん追い込まれていた。
どうしたらあの触手を攻略出来る…?地下に侵入されたらアウトなのはわかってる。
触手は再生するのが厄介すぎる…!
畝黒の魔の手が迫っていた。三ノ宮は物陰で本部に怪人態の解析データを仕切りに送信している。
三ノ宮は畝黒にバレたら終わりだとヒヤヒヤしながらも、ノートPCをひたすら打ち込む。
三ノ宮からもたらされたデータは本部に活かされている。
畝黒は触手を収め、隊員をひとりずつじわじわといたぶる方法へと変えた。
彼の冷酷かつ、残虐さが際立つやり方で。怪人態ゆえに恐怖が増している。
最初のターゲットは粂(くめ)。
「い、いやあああああ!!」
粂の悲鳴が響き渡る。二階堂達は見ていられなかった。このままだと死人が出てしまう…!