医食

セルフネグレクトについて書いたのは一年前だったか。
あの時はとりあえず食べることで解消されたが。


今朝は歩道のレンガひとつひとつにも視線を感じて体が朝から串刺し状態だった。

2週間以上体調が悪い。10年以上なりを潜めていたIBSも過去一の重篤さをもってぶり返し、平熱高めの貧血気味。それがなかなか治らない。梅核気も強めにしつこく出てる。

食欲、物欲、意欲、とにかく欲がない。美味しいものを食べても、ウマいという感動が起きないし、まずいものを食べてもリアクションをとれない。嘘でも衝動買いができない。感覚が低反発状態。
榊のじゃれを不本意ながら鬱陶しく感じていたし、自分からも触れたくなかった。


貧血症状からか、珍しくスナックが少し食べたくなって、昼休憩にドラッグストアに行き、グラノーラバーというヤツを買って食べてみた。
吟味(という名の逡巡、躊躇)しただけあって期待通りの美味しさだったけれど、それまでだった。
前みたいに、甘味で単純にテンションがあがったりしなかった。


いよいよ自分の不調の頑固さに嫌気がさして、今夜は絶食をし、その危機感から無理やり体にエンジンをかけさせようと思いながら、帰った。

部の一部の人たちが飲みにいくようだったけれど、体調が悪いから、と断った。無理だ、さすがに。
でもその人たちのおかげでフレックスの早い方の上がり時間で僕も解放されたわけだけど。

定時の時間には地元駅に着き、タイミングがよかったからと榊も嬉々として迎えにきてくれた。
スーパーで買い物をして、家で料理。

これだった。

自分が、夜朝昼と食べるおかずを作っていたら、みるみる視界がクリアになった。
野菜の手触り、刻む手応え、リズム、熱気、重さ、音、そして香り、味。
感覚が戻ってきた。
気持ちも自然とウキウキしてきた。


もう食べるだけでは自らをケアしてるとは言えないらしい。
普段、ちゃんとしてるからこそなのか?自覚はないけれど。その裏返しなんじゃないかと思った。

ここ最近まともに料理してなかったとことにも、料りながら気づいた。
体調が悪かったり、その癖無理して週末はスポーツに出かけたりして、気も手も及ばなかった。
意外なところで僕はリフレッシュしていたようだ。

この習慣、楽しいと思える、そのきっかけは全て榊が時間をかけて持たせてくれたものだった。
それまでの僕なんて、料理なんて……。

料りながら僕がそのことを呟いたら、隣で自分のつまみを焼いてた榊が満足げに笑った。気がした。



結局、うまいうまいと食べ続け、作ったものすべてぺろりと一人で平らげてしまった。
もちろんこれで、明日の朝、朝ごはんと昼を作らねばならなくなったのだが。まぁ、良い。

遠浅の海

ただただ泳ぎ続ける。果てしない浅瀬を。
望めば溺れることなく浮けるような水深が続く海。彼岸も此岸も分からない、真ん中あたりだろうか。

目的がない。見失った。現実にも心の中にも。
意義も楽しさも感じないような状態で、腕と脚を無心でかき続けている。
止めかたが分からないからとか、力のない泳ぎでもないよりマシと思われるかなとか、そんな頼りない理由づけしか、今の僕の心の中にはない。

何を問われても濁すしかできない。一瞬だけ笑って見せて、また凪ぐ。嘘もついてなければ本当も言っていない。

涼の一

鬱症状から解き放たれると、抑えられていた感情が溢れ出て、切なさに苦しむ。
小さな蒸気が何度もあがる。
恥ずかしげもなく、こどもみたいな小さくて意味のない「好き」が胸の内側をしめらして、こまかな水滴をその表面に生む。
どうしたいもなく、できるわけでもなく、ただ静かに濡れていく。
その程度の質量。

オモテの僕には至らず、いまだ乾いてる。
榊の求めにすらこたえられずに。
<<prev next>>
カレンダー
<< 2017年08月 >>
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31