愚図と職場参観

「さっき会社覗いたら、鮎川、仕事中だった」

ちょうど昼食時にあたったので、榊が出先から会社まで会いに来てくれた。
僕は私用で外出するふりをして会社を後にした。

会社のエントランスから既に、少し離れたところにいる榊と目が合ってしまい、口元の緩みを抑えられなかった。用心して口元を手で覆って歩いた。

ふらふらと近所を歩き回りながら、数分の逢瀬を楽しんだ。


「さっき会社覗いたら、鮎川、仕事中だった」

榊が背筋を伸ばしてタイピングする素振りを見せた。

僕は榊が今着いたとばかり思っていたから、まさかそんな姿まで見られてるとは思ってなかった。

人からは姿勢がいいと言われるが、僕自身からすれば、重度のパソコン首で、肩から上はあまりに見苦しいものだ。

榊も、そんなことなかったよ、と言ってくれたが、うーん…



***



ここ数日、榊以外とのプライベートでダウンしていて、昨日とうとう僕は愚図ってしまった。

ただただ、自分の弱った部分に注意を向け、あらゆることに過剰反応(を起こ)して、そして勝手に疲弊していた。

対榊でさえ、十分なパーソナルスペースを確保したがったほど、気分が塞ぎ込んでいた。

嫌いじゃない。そんなことない。
むしろ好きだ。大好きだ。
でも、触れたくない。
本当はそれ以上に求めてるのに。

駆け引きとか、そういうのじゃない。中二病とかでもない。やみくもにブルーだった。

自分で自分が分からなくて、嫌悪したくなるほどの混迷っぷりだった。



疲労感というかダウンな感じはまだ幾分残ってる。

でも今は、
会えて嬉しい
もっと一緒にいたい
お喋りしたい
と思えるまでになった。

仕事もここ数日踏ん張れてなかった。
パソコン首のダサさったらなかっただろう。

今日は残業せずに帰ることにした。
榊の作ったほかほかのご飯を食べて、ゆったりと過ごして、明日を迎えたい。