2009-11-27 18:03
寂しそうに笑うから。
辛そうに、笑うから。
何だか、他人に思えなくて…
つい、背中を貸してしまったんだ…
*Emperor of apart from others*
世界ってのは重なり合い、影響しあっているとかなんとか、晴天の空の下誰かが言っていた。
とはいえ、こんなに晴れた昼下がりにそんな宗教じみたことを教室内でじっと聞いているなんて僕には出来ないわけで。
結果として夢の国へと逃亡を試みるわけだけど。
仕方ないだろう?
実際に興味があったのは紋章学。
だけど、今初老の教授が長々お話くださっているのは宗教史学。
正直、無宗教な上に不信心者な訳だから、興味なんて塵ほども無い。
こうなったら、もう麗らかなとまでは行かなくても連日の冷え込みが嘘のように暖かく晴れた日に外で遊べないのなら寝るしかないではないか。
うとうと、とし始めたときに残念なことに教授に名指しで当てられた。
う、話なんて聞いていないのだから勘弁してくれ、とか思ってはいたのだが、質問が一般教養レベルだったので助かった。
「明けの明星とまで謳われた存在だったが、結果として堕天したのはなんという天使であった?」
少し考えるそぶりをしてから、答える。
「ルシフェル、です」
初老の教授はむっつりと頷いて話を再開した。
どうやら、眠りそうな僕を目敏く見つけたらしい。
内心盛大に舌打ちしながら致し方が無いので、静かに講義に耳を傾けた。
まぁ、つまり、子守唄代わりにしただけである。
***◇*◇*◇***
真っ暗な世界にいた。
其処には光は届いていないようで、不思議なことに自分自身がぼんやりと光っているようだった。
漆黒で塗りつぶされた闇の中で自分だけが浮き上がって見えるのはそういうことなのかもしれない。
そんな事を考えつつ、どうやら此処は夢らしい、と考える。
さっきから感覚が鈍い。
それもあるけれど、ふわふわと宙に浮いたままで足を動かさなくても僕が思ったほうへと進めるからだ。
にしても、此処が何処だか全く解らずに困り果ててしまった。
やれやれ、なんて思っていたときだった。
「其処で何をしている」
重々しい言葉と共に急に真正面に背の高い男が現れた。
全身真っ黒な装飾の服を着ているのにこの闇の中で何故かはっきりと見える。
僕は首を傾げつつ質問に答える。
「いや、何も、というかこれ、夢だろうし」
そう答えれば、男は驚いたようで、怖いくらいに整った眉目秀麗な顔が若干驚きの表情を見せた。
全く、神とはかくも不平等なのか、なんて僕は嘆息する。
黙っていられるとまるで緻密に作られたビスクドールのようだ。
あまりに美しいのに男らしさも失わないだなんてどんだけ完璧なんだ、と文句位言いたくなるではないか。
そんな中で男は、信じられないとでも言うように一言言った。
「ただの人間が此処まで来て平気でいる、だと?」
独り言なのか、なんなのか、僕は取り敢えず、早く目が覚めないかなぁと寝る前とは間逆のことを思っていた。
すると、男が少し、困ったような表情でこちらを見ている。
「お前、帰れなくなるかもしれんぞ」
「は?」
間髪入れずに聞き返す。
たかが夢で帰れなくなってたまるか、それじゃ永眠じゃないか。
そんなのは御免こうむる。
そう、まさにそのときだった。
闇の奥の奥の奥から尋常じゃないくらい太い鎖が伸びてきて、男に絡んでいった。
男は、嘆息と共に、時間か、なんて零してそのまま引き摺られていこうとしていた。
折角の目の保養財が、とか夢だから悠長に構えていたのに、鎖は何故か私にも伸びてきた。
僕の中の野生の何かが告げていた。
其れに捕まれば、戻れない、と。
必死の体で鎖とのおっかけっこを始める。
こんなところで永眠とかは願い下げなのである。
「だぁぁあああっ!!ウザったい!!!!」
そう僕が叫んだときだった。
その声に驚いたのか鎖が弾けるように粉々になった。
「今のうちだ、逃げろ」
そう言われて、ようやく、引き摺られている男が不可視の力で僕を助けてくれたのだと知った。
男は既に諦めているらしく、抵抗らしい抵抗はしていなかった。
鎖を砕くほどの力があるにも拘わらずだ。
助けてもらっておいて見捨てることは何だか僕は許せなくて。
引き摺られていく男の目があまりに哀しくて。
何故か、初対面の男を助けるために走っていた。
「駄目だ!逃げろ!!」
「だったら、アンタも一緒に逃げよう!」
そう言ったら、男がこれ以上は開かないというほどに目を見開いた。
そのとき、ようやくその男も生きていると感じられた。
それくらい、男が表情を変えたのだ。
「共に?我と…?」
「あんた以外に此処にだれかいんのか?僕には見えない!」
そう言ってようやく追いついた僕は鎖と男を引き留めるように引っ張った。
男はまるで、迷子になった子どもが再び母親に会ったときのようななんとも言えない目をしていた。
その瞳は不安で揺れ、酷く不安定だった。
僕はそっと、微笑んで、もう一度、言う。
「どうせなら、あんたも一緒に逃げよう?」
「共に…?」
「そ、一緒に」
「言っている意味が解っているのか?」
「知らん。取り敢えず一緒に逃げようとは言ってる」
あっけらかんと僕が答えれば、男はくっくっと喉奥で笑い、言い放った。
「面白い娘だ。我が誰か知らぬまま誘うか。良いだろう、共に在ろう」
***◇*◇*◇***
気付いたら講義は終わっていて、僕は講義室に居た…。
To be continued...
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