シャルルマーニュ

雨の中、電車に1時間ほど揺られ榊と田舎に。
初めての、ふたりで電車で帰郷がこの日とは、思い出深いような、胃に悪いような。


携帯の向こうの友達(女の子)のマイペースさに、榊が時折イライラヤキモキしてるのをひしひし感じながら、でもあえて軽くスルーしながら、なんとか合流。


とにかく緩衝材になるべく徹した。
あるいは友達を徹底的にもてなした。

引き出しは片っ端からあけて、球は全て繋ぐか返して……あとは野となれ山となれと。



料理好きゆえに食にこだわる榊への一番の懸念のランチも、珍しく「悪くない」て感じだった。

ところどころの物足りなさはあるものの、完全アウトには至らず、平均的に及第点なので、むしろ印象は良い方。

同じ値段でも、内容(量)が、都会のそれとはずいぶん異なるから、いろんな変わったものが食べられ、楽しめたようだった。

僕はキノコのポットパイシチューを、榊は自家製?ハムを気に入った。


話は思いの外弾んだ。
もちろん榊が気遣いがあってのこと。しかし今のところ負担にはならない程度のようで、ダブルで助かった。

木箱入り

デパ地下で洋菓子を買った。明日会う友達(女の子)へのお土産。
こんな支度するの初めて。

本当は買わなくてもよかったのかもしれない、と後から思った。
僕の方から、行くから。

でも、たまには。
今までお茶一杯とか、ちょこちょこおごってくれてたし。

こんな風に気軽に
「会いたいねー」
「会おうよー」
てできなくなるかもしれないし。



結婚すると大変みたいなんだ。



そうだ、女子っぽいトキメキに飢えてるって言ってたから
かわいいスイーツを買ってってやろうって思ってたんだ。



ちなみに明日、榊、その子と初対面。
僕の方がヒヤヒヤ。

適正距離は、相対的

その親子関係から、自己否定的・自虐的な性質を持ってしまった場合、親とは距離を置いた方が賢明なのだろう。



大人になって、人付き合いがうまく「こなせる」ようになって。
親との関係が改善されるかと思ったけど、変わらなかった。

むしろ、どうにかできる気がする、そう期待が高まる分、叶わなかった時の喪失感は倍増だ。



こういうケースは、親(の価値観や評価)が絶対で、
親に認められない限り、満たされないし、自己否定におちいる。



僕は
「親に応えられない僕がいけない」
とばかり思っていたけど、
「親にいつまでもひっぱられる僕」
がいけないのであって
それを植え付けた親にも原因があると思う。



自分が、様々なことでみんなとは違うのかもしれないと自覚を持つまでは

落ち着きがなく、言うことをなかなか聞けず、突発的で、変哲で、運動神経も頭脳も要領も悪い僕だった。

それを丸出しにして、叱られ、呆れられしていた。

ヒトトチガウコトと分かってからは、なるべくオナジく見えるようにかばった。


オナジく見えるように。
いつからか、つねにそればかりを気にかけていた。




「お前。

昔近所で見かけた、虐待されてる犬と同じ目、してる」


衝撃的だった、榊に最初の頃言われた言葉。


でも、不思議と納得してしまったんだよね。

胸にグッサリ刺さったけど、頭にきたりせず、いちばんストンときちゃったんだよね。



僕よりはるかに壮絶な過去と関係を経た榊も

親にそれでも期待する気持ちって無意識のうちに持たされてるし、
捨て切るまでに相当な時間と力が要った
みたいなこと言ってた。

そう、刷り込まれてるみたいな感じ。
すごいイヤだ。




依存に違いないと認めた上で、

榊のそばでないと、
親に引きずられ、擦りあわされて、磨耗してしまう。

榊は僕に擦り寄せをしないし、
榊とのグレーな同居関係ゆえに、親たちも深入りしてこない。

悲しく、切なく、申し訳なくなることもあるけど
でも、
都合良い隔てるもの
になってくれているのかもしれない。



「味噌汁の冷めない距離」?

そこに絶対的数値はない。

愛とか言うな

僕は世で言うツンデレなのか。
でもそんな生ぬる可愛いもんじゃないと思う。



昨夜、先に寝てる榊の様子を伺った。
暖房をつけてるので、汗かいてないかと。

それが嬉しかったらしい榊は翌朝
「あれは愛?愛?」としつこく聞いてきた。


僕は基本機嫌が悪い。朝は特に。
そして確認されるのが大の苦手。痴態をリピート再生されてるみたいで。恥ずかしい。

溢れる感情を伝えるのに愛という言葉は使っても
自らの行動を、愛、とか言えない。
そんな大仰なつもりなかったし。
気になっただけなのだ。

それが愛なら愛だけど
僕はよく分からない。
受け手次第でいいと思ってる。


ふん、とか、よく分からない、とか言ってたら
榊が拗ねた。当然っちゃ、当然。



僕はたいしたことしてない。これ以外の普段のことも、たいして思いやりなんて持ってない。

榊の優しさに存分に甘えて、駄々こねまくりで、あの一時、人間味を覗かせた程度なんだよ。

だから、あんなの、愛とか言えない。ましてや自分からなんて。

普通のことしただけ。きっと気まぐれに。
そんなの愛じゃないよ、好きだけど。

桜餅

榊が買ってきてくれた。
祖母に供えたい、と。


ウチにあるのは、仏壇ではなく、写真だけ、心ばかりのもの。

先月の月命日に、入院中の祖母と分け合って食べた果物と同じものをたまたま近所のスーパーで見かけ、供えることにした。

写真は自分とのツーショットなどを持ち帰っていたのでそれを使うことにし、写真立てを調達して、即興的に設えた。

それからというもの、水は一日2回、変わったおやつを時々、供える習慣になった。


僕以上に、榊が心込めてあれこれするから、たまに僕を見る写真の祖母の顔がしょっぱくみえることがある。



部屋の中が、甘塩っぱい桜餅の香りでいっぱいだ。

朝、デザートにひとつ頬張ったから仕事中、お昼に鯖を食べるまでは、手までにおっていた。

何度も何度もかいだ。
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