ハイツの匂い

大雨の日
雨風ともに強く、2月並みに冷えるというから
ベンチコートのようなものを引っ張りだして着た。元は榊のもの。

ほぼ僕におさがりでくれていて、雪の日などはこれを着る。

「気に入ってくれてて、よかった〜」
貧乏性の榊。
着る機会は減ったものの捨てられなかったものを丁寧に保管していた。
こだわりが強すぎて新調するのに時間も労力もかかるくせに、実用性のある物をろくに持っていなかった僕(全て若さゆえ。趣味が先だし、暑さ寒さに無理ができた)。
ただのグレー一色のコートなので、着心地さえ良ければ。

気に入っている、との形容に一瞬戸惑ったが、とりあえず嫌いではない。
まぁ、誤解を招くというか、突き詰めるほどじゃないので黙っておくけど。

と、ここまで書きかけて、前言撤回かな。
気に入ってるかもしれない、と。


懐かしい匂いがする。
このコートから。

榊が前住んでたハイツを思い起こさせる匂い。
「榊さん」の匂いがする。香水の残り香かもしれない。(いまはつけない)


引っ越したし、それからだいぶ経ったから、そういうアイテムはもうないと思ってたけど、まさかね。

いつかは薄れてなくなっていくのだろう。大切に着ないと。