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鬼ごっこ。玖



鍵をかけた箱の中身。
記憶の奥底に封じ込めて。

そうして、忘れた…

筈だったのに。






しん、と静寂が降ってきた。
恐らく、私の溢した呟きの本当の意味を知っているのは、赤司だけなのだろう。
否、黒子も、か。

でも、誰もが私の次の言葉を待っているんだろう。
一言も発する事もなく、私を見ている。
やめてくれ、本当に。
今更、どう説明をして、どう、償えと言うんだろう。

あの頃の私はまだ、全てを諦められるほど、大人にはなれず、全てを背負って戦えるほど、強い子供でも無かったから。

「…どう、言えば良いのかわから、ない」

彼等に初めて、素直にポロリ、と本音が溢れた。
まさに、その通りで。
こんな、突拍子もない上に証明してみせることすら儘ならない事を、どうやって説明すれば良いのか、わかるはずもない。
もう一つの生まれてくるはずだった、命、の人格でもあったならまた、別だろうけれど。

思考が迷走して、私は再び黙りこくる。
言い出してしまえば、きっと封印していた全てが引きずり出されてしまう。
そんな、予感さえ過って。
いっそ、嫌ってくれればいい、とさえ思っていたのに。
何を選べば正解なのか、解ろう筈もないなら、選ぶべきは一体どれなんだろう。

視線が、まるで責め立てるように、私の発言を促して。
色とりどりの視線が痛くて。
私の表情から、遂には感情さえ抜け落ちた。
喧騒も遠くへと追いやり、酷く久しい感覚が戻ってきた。

ああ、禁断の匣の中身が絶望だと知っていて開けてしまう者の気持ちなんて、一生解りたくもない。
最後に、希望が残っているだなんて、決まっていないのだから。

きっと、あの日、あの時に受けてしまった致命傷から、逃れ続けるには、私は、幸せになる権利を全て差し出すしかないんだ。

「…けど、私は…。話すべきではないと思う。だから、話せるところだけ、かいつまんで、説明するしか、出来ない」

結論、私は結局あの日に追い付かれる手前でまた、逃げたんだ。
案の定、赤司も、黒子も納得がいかないって顔をしてる。
それでも、あの日の贖罪は私をがんじがらめにして、離さないんだ。
そんな、どうしようもないことに巻き込みたくはない。

「言えない理由くらいは、聞かせてくれるんだろう?」

ああ、御立腹だ。
私は抜け落ちていた表情にかちり、と苦笑をはめ込んで、答える。

「無理だね、どうせ、聡明な君のことだからバレるだろうし、これだけは言えるけど、其処にも核心はあるから」

話せない理由は、核心に触れてしまう。
それが一部分であれ、大部分であれ、触れられてしまえば、芋づる式に全てが引きずり出される。
だから、話せない。話さない。

「…そう」

寂しげに、でも何処か腹立たしげに返された一言に、周囲の温度が幾分か下がった気がした。
それでも、今更、甘えるだなんて…そんな虫の良い話は、酷すぎるだろう。
もう、十分に甘えてしまったのだから。

「逃がしてはくれなさそうだし、そろそろ頭も整理できたから…」

そう言って、彼等を見渡せば、皆一様に黙ったまま、目で静かに先を促した。

さあ、どうやって話そうか。
私の、罪の在処を。
私の存在意義を隠したままに。






一線を画して。
私は追憶する。

最も思い出したくない記憶と対峙する覚悟を決めて、私はそっと匣を開けるのだ。

(ああ、最後に残るのが、絶望ならいいのに)



To be continued?

鬼ごっこ。捌




それは、求めてやまない。
けれど、諦めていたものだ。



あ、と思った時には遅いことってのは意外とあるものだけど、今回のは飛びきり過ぎて笑えない部類だ。

「…顔に、傷付けられたんですか?」

青峰が貼った絆創膏を指でなぞるようにしながら、黒子は明らかに怒りを滲ませていて。
赤司は背中に黒いものを背負っている。
緑間の眉間には深い皺、黄瀬は泣きそうだし、紫原だけがマイペースに駄菓子を貪ってる。

だけど、このときの私は、最も恐るべき頭脳の持ち主を度忘れしていた。

「…かすり傷、だけど?」

一応の弁明を試みるも、あっさりと凍り付くような温度の笑顔のままで黒子がぶった切る。

「女の子の顔に傷、です。重さも意味も違いますよ」

じゃあ、どうしたらいいんだ。
アメリカじゃ毎日のように喧嘩してかすり傷作ってたけど。
まぁ、確かにウィルには毎回ため息混じりに頭小突かれてたから、おんなじ様な意味合いだったのかもしれないが。

ともあれ、思いっきり女扱いされるのには慣れていない。
くすぐったい感覚に、口ごもるしか出来なかった。



悲しいくらいに言いたい放題、彼等は言いまくって。
わたしは酷く落ち着かない気分で座っているしか出来なくなっていた。
そんな、閉塞されかけた状況を打ち破ったのは、奇しくも、私の嫌いなはずの女の子、だった。

「あーっ!!やっと見つけたぁーっ!!」

声のする方へ全員が振り向けば、スタイルのいい桃色の女の子が手を大きく振りながら、こちらへと向かってくる。

あ、と思った時には再び手遅れだった。

「黎ちゃんの顔に、顔に、傷っ!?」

わなわなとし始めた彼女からそこはかとなく、殺気が立ち込め始める。
おい、まさか。そう思った時には彼女は真っ黒な笑みを浮かべて、言い放っていた。

「やっぱり、言われた通り調べて正解だったわ…許さないんだからね…」

おい、待て、美人が凄むな、怖いから。
なんて、心の叫びは伝わるはずもなく。
明日以降の学校生活で憂き目に遭うだろうお局様方に内心で合掌するしか、やってやれることは無かった。

「あー…、止めたところで無意味なのかな?」

そう言ったところで、駄菓子を貪ってるマイペース男子が酷く場違いな、語尾の延びた話し方で、死刑宣告を告げたのだった。

「え?当たり前でしょー?捻り潰すよー」

あ、と思った時には手遅れとは、まさに。
ともあれ、私は前にも聞いた問いをこの場でもう一度投げ掛ける。

「何で、そこまでして私に関わるの?」

だってそうだろう?
私が誰と付き合おうが勝手であるように、私が誰と問題を起こそうが、極論、いじめの対象にされようが、彼等にとっては他人事だろうし。

放って置けば、良い話だろう?
だから、問うのだ。何故、と。

「君は、本当に酷いね」

苦笑に溜め息を混ぜて赤司は、私を見据える。
落ち着かなくなっていた私の居心地はさらに、落ち着かないものになる。
それでも、逃げ出すこともできないから、口をつぐんだまま、赤司を見詰める。

「覚えていないのか?本当に…」

苦笑は、寂しさの混じるものへと移り変わる。
それは、赤司だけで、他の奴等はその台詞に困惑気味な視線を向けていた。

「……僕は、覚えていますよ、黎、さん」

そんな中で黒子は赤司の言葉を継ぐように私の直ぐ隣で答えた。

わから、ない。
それが、正直な私の答えで。
彼等に会うのは、此処が初めて、の、筈…。
本当に、そうか。
過去を紐解いて、遡って、私は一つの可能性に行き着いた。

奇しくも、此処は、ストバスコート。
あの日、あの時の記憶の隅にちらつく赤。
まさか、そんな、馬鹿な。
だとしたら、神は本当に意地が悪い。
そして、私は相当に、酷い奴、だ。

「AND1…」

俯いて、私はぼそりとこぼした。
その単語に、赤司と黒子が、安堵したように息を吐いた。

ああ、やっぱりそうらしい。
ウィル、どうやら、私は色々と忘れてたみたいだ。
人と関わるのが苦手で、怖くて、辛いから逃げていたせいで、人を傷付け、遠ざけて、平気になっていたみたいだ。
それが、独り善がりだってことも、見ない振りをして…。






何時しか、望むことを止めた。
そうして、何時しか、本当の笑顔を…

忘れていったんだ…


(どうしてだろう、今が一番逃げてしまいたい)

to be continued?

バレンタイン〜黒レイの場合〜




何時かの夢の続きが、今だったら、私は今も、昔もきっと、とても幸せだと思うの。
だって、大好きな歌を歌ってる。
ほら、その歌が、貴方を笑顔にしているのなら、私はとっても幸せなの。



歌姫の場合。



昼休みに忍ばせた秘密の招待状。
彼はちゃんと気付いて、今夜のシークレットライブに来てくれるだろうか。
レインは一抹の不安を感じながら、衣装に着替え始める。
彼女は、インディーズとしては有名な部類に入るバンドのヴォーカルだ。
伸びやかな高温に、パワフルな声量が売りで、彼女自身も作詞作曲をすることもある。
そんな、レインが属するバンドは、地元ファンも多く、中々チケットが取れない事もあった。
だからこその、シークレットライブだった。
有名になる前からのファンの為の感謝イベントみたいなものだ。

彼、黒田は、レインが氷雨とたった二人で始めた路上ライブの頃からずっと、ずっと通ってくれていた。
ファンの中でも一番の古株だった。
だからこそ、レインは黒田には絶対に来てほしかった。
でも、賭けでもあった。
一つは、黒田が招待状に気付くかどうか、そしてもう一つは…。



一定のリズムで打ち鳴らされる手拍子が段々と早くなっていく。
ああ、そうだ。これはレインたちへのアンコールなのだ。

「賭けは、私の勝ちだね、氷雨」

言えば、最初からそうなる事を分かっていたみたいに、氷雨は既に急遽レインが作ってきたバラードの為にチューニングし直していたギターを手にしていた。

「俺は、お前がここぞの賭けに負けたところは見た事無いからな

にやり、と不敵に笑うその横顔は何処か達観しているようで、彼が同い年だと言うのに、酷く大人びて見える原因なのかもしれない。
それでも、今はそれが心強かった。
レイン達の曲目でバラードはほとんどないのだ。
だから、これはとても珍しい一曲とも言える。そう、たった一人の為に書き下ろされた、今日の為だけの歌。

「悪いなぁ、って思うけど、でも今日くらい我儘でもいいよね?」

小さく舌を出して、レインははにかんだように笑う。
ドラムのベースのガシュウインも、ドラムのソラフネも、力強く頷いてくれる。
ありがとうの、代わりにレインも満面の笑みで頷いた。


Con la fine scura e scura di notte
È affogato in una ferita lacera.
Una preghiera non arriva, ma non c'è anche aiuto, come.

.. si chiede lamentosamente.
Lei non desidera se essere quelli che mi salvano--esso..., l'oscurità è affondata e fece nell'oscurità di notte, e questo corpo è molto facendo inorridire

Una ragazza blu e scura
Tenga fuori una mano.
l'oscurità è presa su e è liberata--è eseguito e, come per. e l'oscurità abbondante, una ragazza tiene fuori una mano a tutto in ricerca di aiuto

Se una ragazza non ha indirizzamento che estende una mano e va nell'oscurità esitante
È ad ambo vada.
Ride e canta. 

È eseguito e lei è una ragazza di. e blu scuro.
È tinto l'oscurità.
Finalmente diventa freddo.

Lui è un apostolo anche se diviene.
La morte sciolta è. (ed) e non c'è fine.

Una ragazza blu e scura
L'oscurità è tinta e è usata e è addebitato con un crimine.
È tinto un fiore di loto rosso.

Una ragazza canta.
Una ragazza canta. 

La mia canzone può essere sentita?
Non sia triste per come ed io senza biasimando per me e piangere se Lei per favore per come ed io.

La mia voce può essere sentita?
Cantiamo l'ultima canzone per Lei.

Guardi a domani.
Si rivolga ad una fronte.
Può seguire. 

Cantiamo l'ultima canzone per me.

Se Lei per favore, non dimentichi.
Se Lei per favore, lui ricorda.

Questa canzone è una canzone che augura la felicità.
Questa canzone è una canzone connessa a domani.

La canzone che canta la speranza e guida via l'oscurità

il tempo--.--usiamo la magia in una canzone

È riempito con speranza.
È riempito con una faccia sorridente. 

Pianga e risata.
Desideri ed uggiolare.

Magia che ride ognuno a che e veste presto

Magia che chiama la felicità se anche questo amore è chiamato magico 

Cantiamo un .... la causa.


その曲は何処か荘厳で、何処か、悲しくて、でも、酷く優しかった。
語りかけるように、囁く様に、それでも力強く歌いあげられる歌。
知らず、会場は涙声が混じり合う。
ささくれた心の傷に沁み渡り、大丈夫、さあ、笑って。そう言われてるような感覚。
レインと重なる面影は誰のものか。
黒田は止められない涙の向こう側に、探し求めた姿を確かに見た。

「れいん、ちゃ、ん…」

忘れたくても、忘れられなかった。
いや、忘れる気なんかなかった。
これは、原初の記憶だ。
ああ、そうか。確かにあの時、彼女が言ったとおりだった。
ずっと、ずっと、其処に居たのだ。
黒田は止まらない涙を拭く事も出来ないまま、呆然とステージで歌いきった彼女を、見詰める。
彼女は、彼女だ。
けれど、確かにその意思は、歌は受け継がれ、繋がり、今ここに結実している。
そうか、赦されていたのか。
最初から、ずっと、ずっと。彼も、彼女も。



ネオンが輝く喧騒を少しだけ離れた場所にある公園は、静かで、都会のなかでも星が見える珍しい場所だ。
ライブの後で、何時もなら、出待ちをするだろうに、黒田はあまりの衝撃に、気付けば静かな公園で立ち尽くしていた。
きっと、今頃、レインは眉を少しだけハノ字に寄せて、困ったように笑っているだろう。
それでも、今日の歌は、何かを思い出させる。
いいや、覚えている。
不思議で、愛しい、記憶の欠片。

「えへへ、見つけたよ?黒田君」

なのに、どうして、君は此処にいる?
居る筈の無いレインの声に黒田は怯えたように振り返る。
確かに其処にはレインが居て、息を少し切らせて、微笑んでいる。

――大丈夫、だよ…もう、逃げないから

そう言って笑ったあの時。重なった微笑みに黒田は顔を歪める。

「どうしたの?」

混乱し始めた意識。
混じり合う記憶。これは誰の記憶で、今は何処で、彼女は…


カタカタと震え始めた黒田を、不意に温かくて優しい匂いの何かが包む。
あ、と思った時には、彼女に抱き締められていた。
鼓動が感じられる距離、彼女が確かに此処にいて、生きている証。

「黒田君、ごめんね、わからないんだけど、でも、ごめんね?でもね、でも、私、幸せなんだよ…」

其れは、まるで、あの日の望んでも、望んでも、得る事は出来なかった物語の続きの様で。


泣き始めた空の下で、笑顔の魔法は花開いた。
黒田はわんわんと泣く。
けれど、レインは優しく笑って、手を引いて。
帰る先にはきっと、温かな家と、お菓子と、たくさんの幸せが待っているんだろう。



歌姫の贈り物は甘い甘いお菓子よりも
ほろ苦い、涙の後に姿を見せる、綺麗な笑顔の魔法がお似合い。


(ねぇ、今日の歌は、よく見る夢でね、黒田君によく似た人がね、一番気にっていた曲なの!!)


おわり。
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バレンタイン〜テンシアの場合〜



鞄に忍ばせたのは、酷く強がりで、天の邪鬼な彼女の、小さな、小さな、勇気。



彼女の事情。



女子も男子もそわそわとする1日。
特に、高校生くらいの男女なら、この日をきっかけにしようとする者もきっと、少なくないだろう。
彼女もそんな中の一人で、四苦八苦しながら親友のリナとレインと一緒に作った手作りのガトーショコラを涼しげな蒼の袋に濃紺のリボンでラッピングして、そっと鞄の中に忍ばせている。

彼女、シアは、親友に言われた痛烈な一言を思い出して、項垂れそうになるのを、必死に押し殺す。

「そんな簡単に、素直になれたら苦労はしませんわ…」

親友二人からは、再三、今日くらいは素直に本当の気持ちを出してみなよ、なんて、シアにとっては酷く難しいことを言われていた。
シアも自覚するくらいに彼女は天の邪鬼なところがある。
所謂、ツンデレとかいうやつだ。
本人はそれを頑なに否定しているけれど、端から見れば、まさに、と言ったところ。


ぐだくだと考えているうちに、放課後になっていた。
うう、とシアは眉間に皺を寄せながらも、何とか渡す方法を考える。
何か、きっかけになるようなことは無いだろうか、そんな考え事ながら、廊下を進む。
そのせいか、多目的教室の扉からいきなり出てきた腕に手をとられ、中へと引きずり込まれるまで、まさか、そんなところに人がいるだなんて気づきもしなかったのだ。


驚きのあまり、叫ぼうとする口を大きな手が塞いでいる。
聞き慣れた声が耳元で笑い含みに囁く。

「悪いねー?そんなに驚くとは思わなかったからさ」

悪びれもせずに言うのは間違いない。
言いながら解放された口から出たのは、刺々しい声で、内心、こんな日まで私は、と彼女は落ち込む。

「全く、貴方という人はっ!」

それでも、氷みたいな仮面はそんな自分をちらりとも外には出してくれない。


いきなり、腕を引かれたせいで、倒れこむようになったからか、いつの間にか、背後のテンプウの足の間に座らされ、腹に手を回されるようにして抱き込められてしまっている。
そんな風に逃げられなくしておいて、彼は酷く優しげに笑って、シアに差し出すのだ。
一番欲しい言葉を込めたその、甘い菓子を。

「はい、これシアに…俺の、偽らざる気持ちだから」

言われて、渡されたシンプルな彼らしいラッピングの施された紙袋。
ああ、なんて人だろう。
きっと、彼はシアの不安も全部、お見通しで、その癖、ほんの少ししか甘さを見せてはくれないのだ。
まるで、彼が彼女に差し出した、菓子のようだ。


あまりのことに、思考はついていけなかった。
寧ろ、真っ赤に染まっているであろう耳の先や、頬に灯った火のような熱さにどうしていいのかわからなくなる。
必死になって、シアはテンプウの腕の中から脱出する。
きっと、あのまま腕の中にいたら、どろどろにされて、氷の鎧は何処かにいって、弱くて、臆病な自分が出てきてしまうだろうから。
そんな格好悪いところを見られるのは絶対に嫌で。
彼女は逃げ出してしまった。


もう少しで廊下に続く引き戸、その引戸に手をかけた瞬間、親友の言葉を思い出した。
そして、鞄の中身も思い出す。
振り替えれないまま、たっぷり三秒、唇を噛み締めて、耐える。
少しだけ頬から熱が引いた。
瞬間。

「捨てるなり、誰かにあげてしまうなり、好きなさいませ!」

きっと、結局は真っ赤な顔のままだったろう。
彼女はあろうことか、取り出した可愛いラッピングの紙袋をテンプウに投げつけたのだ。
突然のことにポカンとしながらも、テンプウは持ち前の反射神経でしっかりと受け止めた。

受け止めたときには、引戸が引かれる音がして、既にテンプウの前には愛しくて、可愛らしい彼女は居なくなっていた。
そんなテンプウが、シアが叫ぶように叩きつけた言葉をなぞるように、言葉を重ねる。

「捨てないで、誰かにあげないで、か…」

堪えられないといった風に彼はとても幸せそうに笑った。



くしくも、互いが互いに作った菓子の名はガトーショコラ。


甘くてもダメ、甘くなくてもダメな、そんな二人のような菓子…


(テンプウの菓子袋の中に別の包みを見つけて、シアが泣いてしまうまで、後)何秒?


おわり。

鬼ごっこ。碌



緩やかな変化さえも見落とす事が無いように。
幾重にも張ったバリケード。

ああ、そうだ。
何時の間にか、誰も入れないのではなく。
私さえも、出られなくなっていたんだ。 






不穏な空気。 
否、これは明らかに重たい空気だな。
多分、私が口を開かない限りは彼等は授業にさえ出ない気がする。
あまつさえ、彼等は酷く機嫌が悪いと言うのに。この空気の重さは耐えられるものじゃない。

じゅるる、もぐ。

取り敢えず、購買で買ってあったパンとコーヒー牛乳の続きを食べる事にした。
ちなみに、購買で売っているパンでいつもの、というと。
焼きそばパンと、ハムサンドを入れてくれる。
今日のオマケは、コロッケパンと、パックのココアらしい。
なんとも、私の好みを熟知している、と思う。
とはいえ、そろそろ自炊がてら弁当でも作ろうかとも思うのだが、奈何せん生まれ変わっても私は朝に弱いのだ。
起きれなければ、朝ごはんだってままならない。
朝食に加えて、弁当も、となればより早く起きなければならないからこそ、作れないのだ。

「緊張感が無さ過ぎなのだよ…」

呆れ晴れた緑が私を見ながら嘆息する、。
まあ、我ながらこの空気が耐え難いなんて思いながらもしっかりと昼食を食べている辺り、神経は細くは無いようだ。

「知った事じゃないよ、もともと私はご飯を食べようとしてた」

そう言えば、そうだ。
もともと、私は昼食を食べに此処にやってきたのだから、その目的を果たした処でとやかく言われる謂れは無いわけだよね。
そう思えば、もう迷うことも無い。
気にせずにむしゃむしゃと口を動かしながら、空を見上げてぼけら、っとする。

「最初からそうだね、黎、君はそうやって逃げてしまうだろう?」

そう言いながら、赤司は自分の方へと私の意識を戻す。
私は問われてはいないのに、どうにも無視する事も出来ない言外の圧力に、仕方無しに視線を下へと戻した。
私の左隣に黒子、右隣に黄色、正面に赤司で後は其の間に入る形で円形に座っている訳だけど。
どうして、黄色はこんなに間を詰めて私に寄ってくるのか。
どうにも、左に黒子が居るから一定以上は距離を取ることも出来ないと言うのに。

やれやれ、どうにかしないと、果てしなくこの平行線は続くだろう。
時に捻れ、けれど、決して交わることはなく。
要するに、妥協点がない。
接点がないのだから。
それは、交わらない平行線を、重なるまで逃げられやしないことも示していて。
逃げたい私と。
逃がしたくない彼等と。

「逆に聞くけど、アンタ等はどうして私にそれほど関わろうとすんの?」

それは平行線。
逃げるものと、追うものの、交わってはならない倫理。
それでも、踏み出さざるを得なくされたのは、やっぱり彼のせいだろうか。

「漸く、興味を引けたかな?」

不敵な笑みは崩さないまま、赤司は微笑む。
興味、ああ、言われてみれば、私は彼等に興味なかった、ともとれるのか。
まぁ、うん。関わりたくなかったのが大きいのだけど。



沈黙の支配する空気ってのは大抵の人が嫌うけど、私みたいな人種には苦でなかったりする。
寧ろ、あれこれと、考え事をするには適しているから。
誰も喋らないのをいいことに、私は再び視線を外して無表情のまま思考の波に意識を沈める。
興味があるとか、ないとか、じゃあ、多分ない。
根本的に、この世界で深く人と関わりたくないだけだろう。
それは、恐怖、不安、それに怯えているだけなのかもしれない。
どちらにせよ、既に避けたかった面倒な事態には陥ってしまっている以上、このカラフルな野郎を無視しようが、しまいが、結果は変わらないのだろうが。
それでも、エスカレートされても困るのは事実だ。
海外にいるこの世界の両親の事は勿論愛している。その二人に心配させるなんて最も避けたい事だからだ。
とはいえ、このままこの現場を見られでもしたら厄介な事も事実だった。
だけど、それをこいつ等に言うのもまた、お門違いだ。
形や、方法はどうあれ、彼等は心配してくれたのだろうし、それを無下にしてまで今の御局様達の事を押し付ける気にはならなかった。

そう、なら、もうやるべきことは、決まっているんだ。
痛みには死ぬほど、慣れてしまっているし。
独りは然程、辛くは無い。切なくて、空しい事は確かだけれど。
だが、彼等が思うほど、私は弱くないだけだ。

「…さて、そろそろ私は授業に戻るよ。サボり過ぎるのも問題だから」

ゴミと化した昼食の名残を手早く入れてきたビニール袋に纏めると、私は立ち上がる。
そんな私の物言いに、彼等はやはり各々不愉快そうな顔をする。

「ねぇ、黒崎。黒崎は敢えて僕等を怒らせるような物言いを選ぶよね?わざとだろ」

断定が私の足を止めた。
もう、後数歩でこの場から去れたと言うのに。
というか、私も何を立ち止ってるんだか。これじゃ肯定したようなものだ。
まぁ、実際に意識的に突き放そうとはしていたから図星を吐かれたと言えば間違いは無い。

「さて、どうかな」

それでも、必死に虚勢をはって、馬鹿だなぁって苦笑を零す。
それでも、私はあんた等に甘える気は無いんだよ。
どれだけ、何を、どう、されようが。その仕返しをするのは私でなくちゃいけないし、何より、もう、あんな思いは御免だよ。

「それは肯定と同義だよ、黒崎」

まぁ、鋭い彼の事だ。大体の自体は把握してるだろうし、私の性格も大体把握してんだろう。
それでも、だからこその意地ってものもあるんだってことは理解の範疇外かもね。

「御好きに」

短く返して、私は今度こそカラフルな連中がいる屋上から逃げ出した。



ふあ、と欠伸を一つ。
案の定私は放課後に居残りでプリントを解く様に言い渡された訳だ。
まぁ、あくまで中学レベルですんで。私、前世社会人ですんで。
10分もあれば終わりますよ、先生。
与えられた設定時間は30分。もうかれこれ三回以上は見直ししている。
それでも残り20分残る訳だ。
今日は早く帰りたい理由が在ったのだが、自業自得と言う奴か。
まぁ、いい。なら、先生が帰って来るまで、私は睡眠にいそしむとしよう。
意外と独り暮らしってのは体力が必要なものなのだ。

だから、知るわけないんだよ。
まさか、寝てる間に、こんな事態に陥っているなんてさ…。



肩を揺すられて私の意識は浮上していく。
ぼんやりとしながら、頭を上げて、肩を揺すった手から腕を伝って、顔を見遣る。
一瞬にして眠気は何処かへと消えうせた。
其処に居たのは、酷く怖い笑みを浮かべた、女子の集団だった。

「…ちょっといいかしら?」

有無を言わさぬ雰囲気と言うのが在るのなら、まさにこれを言うのだろう。
しかし、本当に数だけは揃えてきたなぁ、なんてこんな時にすら暢気な思考は、冷静さの表れなのか、どうなのか。






復讐劇を、始めよう。

(大変ッス!!黒崎っちが女子に連れてかれてるッス!!)
(赤司、嫌な予感がするのだよ)
(僕も、同感です)
(あー、不味いかんじー?)
(っち、んであいつは頼るってことを覚えねんだ)
(…仕方ないね、事実上、もう部活も終わりだ…スタメンだけ別メニューという形にしようか)

(ランニングに行きたいんだろう?)