昨日に引き続き第2話です。
続きモノなので読んでない方は先に
1話を読まれる事をお勧めします。 では、二話をどうぞ。
「やっほー腕時計」
上から降ってきたへらへらとした声に、呼ばれた腕時計は一度瞬きをしてから、わざとらしく眉間に皴を寄せて頭上を見上げた。
「何の用だ」
「んー? 別にー」
机の上に座るストップウォッチを睨んで取り敢えず用件を訊ねた腕時計は、その回答に思わず溜息を吐く。これで何度目だろうか――自分は正に一分一秒を狂い無く刻んで働いているのだ、暇なヤツと遊んでいる余裕は、ない。
腕時計は痛む頭を押さえつつ、何度目か分からない台詞を口に出すが。
「用が無いのなら、声を掛け……」
「ねぇ、もう少しゆっくり生きたら?」
突然の真剣な声に、言葉を切ってストップウォッチを見上げれば、至極真面目な表情にぶつかる。
その真摯な視線に、あまりにも真っ直ぐな瞳に、腕時計は動揺を隠せないまま、目を逸らす。
「そんなに生き急ぐこと、ないじゃん」
言われた言葉に、胸の奥が僅かに軋んだ気がして、腕時計は知らず、心臓の上でシャツを強く握り絞めた。
「……悪かったな。こういう生き方しか、出来ないんだ」
「……、」
絞り出した声は小さく、微かな震えを伴って、空気に溶ける。余韻も無い程のその音に、ストップウォッチからの反応は、ない。それが何故だか更に苦しくて、腕時計の瞳にうっすらと水膜が張る。
自分から目を逸らした筈なのに、今、ストップウォッチの顔が見えないことがひどくもどかしくて、腕時計は不意に、顔を上げる。
「お前が、少し……羨ましいよ」
腕時計がそう声に出した途端に、ストップウォッチの顔が歪んだ。
後悔が胸に広がり、しかし涙は流れることはなく。
涙の代わりとしてはひどく粗末な、自嘲のような苦い笑いが、零れ落ちた。
……まだ続きます。