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season3 第9話(3)

鼎がイーディスと接触してから約15分経過。車内で待機中の御堂と梓は超小型カメラ映像の異変に気づく。


「映像、ほとんど見えないな…。すっごいぶれてるけど」
「さっきから激しい言い争いしているし、イーディスのやつ…鼎に危害加えてるんじゃ…!」

音声はするのに映像がほとんど見えないのだが、カメラが揺れている。音声はずっと言い争う声。
時折、殴りつけるような音がする。イーディスこと、六道は抵抗出来ない鼎を殴る蹴るなりしている様子。



梓の予想は当たっていた。

イーディスは鼎を壁に追い詰め、感情を剥き出しにしながら鼎に対してひたすら殴る蹴るを繰り返してる。


「あんた…そもそも弱点剥き出しなのよ!!『戦えない身体』って自分で言ったのが仇になったようね!!
こうしてやるわ!!…その仮面…叩き割ってあげるからね。素顔を暴いてやる」

イーディスの恨み節と鼎の苦しむ声。映像を見ている人達からしたらこれはキツい。


仮面を叩き割るって…相当こいつ…恨んでいるな。鼎を。

御堂も気が気じゃなかった。



イーディスはひとしきり鼎を殴りつけ、蹴りつけた後、ダメージを受けた鼎にあるものを示した。

「これ、何かわかるかな?これよこれ」
示したものはポリタンク2つ。
「私ねぇ、あんたを道連れにすることにしたわ。呼び出したのはそのため…」


道連れだと!?

鼎は逃げようとしたが、殴られたダメージが効いていてうまく動けない。イーディスはポリタンクを開け、床に何かを撒いているようだ。


あれに引火したら…!


「どうしたの?逃げないの?さっきまでボコボコに殴ってやったんだから、逃げたくても逃げれない…でしょう?
あんたのその身体じゃね」


鼎は自分の身体を憎んだ。憎んでも憎みきれないが…。



待機中の御堂達は鼎に装着した、超小型カメラからの映像が元に戻っていたと気づく。

「このままだと鼎が!!」
梓はビルに向かおうとするが、西園寺に止められる。


「このビル…何か仕掛けてあるな。君1人が行くのは危険だぞ」
「人命優先でしょ!?」

何か仕掛けてあるって…何があるっていうんだよ…!



「警部、映像から何か音が聞こえてきませんか?
2人が口論しているのでわかりにくいんですけど…」

束原は超小型カメラ映像が映した4階から、何か規則的な音がすると西園寺に報告。
耳をすませば確かに小さいが「ピッ…ピッ…ピッ…」と音が遠くから聞こえているのがわかる。



鼎は痛みに耐えながらも元事務所を脱出する。
あのポリタンクの中身は灯油かガソリン…。イーディスはそれに火をつけて道連れにする気なんだ…。

イーディスも鼎の後を追う。
「満身創痍のその身体で逃げれるかな?痛めつけてやったのよ。完膚なきまでにあんたはもう、抵抗出来ない…」


ジリジリ迫るイーディス。



矩人(かねと)は近くのビルの屋上でニヤニヤしていた。

「1つ目の爆弾が爆発する頃合いだな。最初は威力は小さいが、イーディスにカマかけてやろ♪」



鼎はふらふらと4階をさ迷う。イーディスはその後を追う。

「鼎、相当消耗してるわね。やりすぎたかな」
「ごちゃごちゃうるさい…」

「私に刃向かう気?何も出来ない癖に」
イーディスは鼎に急接近し、そう言い放つ。鼎は絶体絶命だが、小さな規則的な音に気づく。

音の感覚がだんだん短くなってないか!?


矩人が仕掛けた3つの爆弾のうち、1つは時限式。4階のどこかにそれは仕掛けられてある。
音はほぼ連続している。まるでアラームのように「ピピピピ…」と。

それから数秒後、4階の一角が爆発。
鼎とイーディスは離れた場所にいたため、爆発による怪我はなかったのだが今度は鼎が彼女を問い詰める。


「イーディス…どういうことだ!爆弾を仕掛けるなんて…!」
鼎はイーディスの胸ぐらを強い力で掴んでいた。

「私は…私はやってない…!誰かに仕組まれたのよ!」

イーディスも動揺している。彼女は昨日からやけに矩人と遭遇したなと思い出した。


矩人が仕掛けた…?


「答えろ。本当にお前は爆弾を仕掛けていないのか!?私はお前を信じない!」
「ちょ…ちょっと、どこへ行く気よ!?」

「元事務所だ」


鼎は完全にイーディスに対して信用していない。
数年前、彼女は全てを奪った怪人に対する復讐心でイーディスの仲間にはなったものの…どこかイーディスを疑っていた。

当時の鼎は人間不信になっていたのもある。



「道連れにしたいのならば、好きにすればいい」

何言ってんの!?この女…。あんたは火が苦手なはずじゃあ。


「イーディス…お前、畝黒(うねぐろ)と組んでると見た。復讐稼業の傍ら、していたんだろう?悪事を」
「う、うるさいわね!!」

「…図星のようだな」
妙に冷静な鼎。


矩人は予想外の展開に焦る。
なんなんだ、紀柳院という女は…。見透かされてる?


彼は残り2つの爆弾を爆破させることに。この2つは殺傷力の高い代物だ。

「お前も始末してやる、仮面の司令補佐」


矩人は起爆スイッチを同時に2つ、押した。



元事務所と元事務所がある4階のもう1ヶ所で大きな爆発音がした。鼎とイーディスは爆風に飛ばされてしまう。

爆発の衝撃で床に撒かれた灯油に引火、元事務所は炎に包まれる。
鼎は爆発の衝撃と爆風で仮面が割れてしまう。


こんな時に仮面が割れるなんて…!

ちなみに彼女が着けている白いベネチアンマスクは戦闘兼用なため、滅多には割れないのだが威力の強い爆発により、仮面は爆破の衝撃には耐えられなかった模様。



「消防と救急車はまだなのか!?」

御堂が乱暴に聞いてる。西園寺達も騒然としていた。2ヶ所同時の爆発だなんて…。


「到着までまだかかると」
束原は冷静をギリギリ保っている。

これに痺れを切らした御堂と梓は廃ビルの中へ行くと告げる。


「君たち無謀だぞ!消防隊を待ちなさい!」
西園寺が叫ぶ。

「鼎の仮面が割れたの、見ただろ。映像で。
あの破片は鼎の仮面だ。あいつ…長い時間素顔になれねぇんだよ。下手したらあいつ…失明の危険がある。火傷のダメージは目にも及んでいるからな。
仮面を失った鼎はリスクがあまりにも大きすぎる」
「だからあたし達で助けるわけね。短時間勝負だけどさ」


西園寺は思い返した。確かに紀柳院の仮面は目までがっちりとガードされてある。
あの黒いレンズの意味を初めて知った。だから常に仮面姿…。

下手したら失明って…。残酷すぎないか…。


御堂と梓はビルの中へと突入。4階からは煙と炎が見える。
早く助けないと…!



一方、鼎は負傷したイーディスと共に4階から逃げる最中。

「あんた…なんで助けるのよ…」
「お前は生きて償え。…私もお前と手を切ってから、償い続けてる。例え相手が怪人でも復讐で亡きものにしたことには代わりないからな……」

「怪人相手は罪に問われないはずなのに…なんで…。
それよりもあんた…仮面…割れてる。あんた…もしかして目、あまり見えないの…?
仮面…飾りじゃなかったんだ…」


イーディスは鼎が不便そうにしているところを見逃さなかった。
仮面を失った鼎からしたら、かなりキツい状態。

仮面は顔と目を保護するためにある。火傷による目のダメージは深刻かつ、治療法もないために保護するしかない。


辺りは炎に包まれているため、鼎からしたら出口がわからない状態。
イーディスは敵だが、今はそれどころじゃない。


「大丈夫!?」
「先に行ってろ…!」

私が感情的に殴ったダメージが今になってきてるんだ…。
イーディスは鼎を見捨てなかった。緊急事態なため、彼女の素顔を見る余裕なんてない。


「早くしないと…失明するかもな、私は。リスクを承知な上だがな」
「ちょ…今なんて…」

「多大なリスクの元、動いている。素顔になれる時間は短時間と限られているんだよ。もし…長時間になろうものなら…」
「早く出ましょう。ヤバい…火がそこまで来てる…。」


仮面を失った鼎と負傷したイーディスはなんとか階段を下るが、鼎の体力は消耗していた。

明らかに鼎は息切れしていた。素顔というのもあってか、どこか足元がおぼつかないように見える。


仮面がないだけでこんなにもなるなんて…。



その頃の御堂と梓。

「梓、鼎の顔を覆うもん持ってきたよな?急ごしらえでいいから」
「当たり前でしょ。仮面を失った鼎はリスクが大きすぎる…。時間勝負だかんな。
映像も何が起きてるかわからなくなってる。とにかく急がないと」


2人は鼎とイーディスを探す流れに。人命救助優先なため、そうなった。



ようやく消防・レスキュー隊と救急車も到着する。


西園寺はレスキュー隊にざっくりと伝えた。

「紀柳院司令補佐は爆発の衝撃で仮面を失っている。長時間素顔になれないと聞いた。
下手したら彼女は失明のリスクがある。救助を早急に頼む」
「了解しました。つまり彼女はかなり危険な状態にあると」

レスキュー隊、隊長久保田は隊員達に伝えた。

「短時間で救出しなければならないか」



御堂と梓は叫んでいた。


「鼎!どこにいるんだ!!鼎!!」
「今助けるからね!」


「…声がする」
鼎は呟いた。

「私はここだ!!早く…来て……くれ…」


イーディスは鼎の異変に気づく。目に異常があるのだろうか、さっきから様子がおかしい。
鼎とイーディスがいるのは3階だが、鼎の体力が限界に来たためここで足止めになっている。


早くしないと火が迫り来る状況…。そしたら2人ともお陀仏になってしまう。


イーディスは鼎の手を引きながら少しずつ、階段を下がる。

「鼎…目……大丈夫か?見えてるの…」
「見えてるよ。仮面が割れるとか、想定外だ。あれがないと支障をきたすのにな…」


御堂と梓は鼎とイーディスを発見。


「鼎!俺だ!!わかるよな!?」
「和希!?」

「鼎、先に目を保護するね。あんたが失明したら…えらいことになるから。ちょっと我慢してね〜」


梓は綺麗な布で鼎の目元を覆った。布で目隠しした状態。
「目はつぶって。ダメージをこれ以上、深刻化させたくないでしょ?
消防隊と救急車も来てるから安心しな。鼎は検査する必要あるだろうな…。目のダメージが進行してなきゃいいんだが」



御堂は鼎を背負うことにした。


「体力が限界だったのか…」
「あぁ」

「イーディスは?」
「六道は琴浦に連れられてる。あいつも負傷してるからね。人命優先だからな、今は。敵も味方も関係ないだろ」


御堂はぶっきらぼうにそう言い放った。


season3 第9話(2)

御堂は鼎を探していた。早めにメシ食ってる可能性はあるよなー。
例のビルには14時までに着いてないとならないからなぁ。


御堂は鼎を見つける。

「探したぞ。…やっぱり早めにメシ食ってたのか」
鼎はコンビニで買ったとおぼしきサンドイッチとコーヒーを食べていた。

「それ…足りるの?」
「緊張なのか、食欲が微妙で…。軽いものしか入らない」


鼎は食べ終えたらしく、ずらした仮面を元に戻す。サンドイッチくらいなら仮面をずらす程度で済むらしい。


「か…鼎……」
「和希、どうしたんだ?なんでそんな顔をする」

鼎はいつもと違う御堂に気づいた。あんなにも不安そうな和希、初めて見たかもしれない。


御堂は鼎を背後から抱きしめた。あまりにも心配すぎて、思わず鼎にした行動。無意識だった。

「胸騒ぎがするんだよ…。嫌な予感がする。なんというか、大きい力が動いている気がするんだよ…!」
「和希、それで私を探してたのか。…いつまで私をハグしてる?」

「べ…別にいいだろうが!こっちは不安なんだよ…。お前と話して少しは楽になったよ。
それじゃ俺は琴浦んとこ行くね。段取りあるからさ。まだ移動はしないから彩音に会ってくれば」
「…そうする」



司令室。梓は御堂を待ちかねていた。


「おせーぞ御堂。鼎と話してきたのか」
「…あ、あぁ」

「ははーん。あんた、相当不安なんだろ。鼎はお前の後輩でありながら、彼女だもんな〜。
あたしも心配だが、鼎は大丈夫だっつーの。気にしすぎ!段取り確認すんぞ、ほら」



鼎は休憩所で彩音とポツポツ話してる。

「うまく決着つけれるか…。私は過去の精算をすることになるが…」
「これ。室長からだって。もし、イーディスと戦うハメになったら鼎は戦えない身体だからって…これを渡したよ。受け取ってくれるかな…」
「ナイフ?…ただのナイフには見えないが…。鞘があるタイプだ」

「これなら身体に負担がかからないだろうって。気絶させるために持たせるとか言ってた。護身用だよ」



やがて移動時間になる。御堂が運転する組織車両内。

鼎・御堂・梓はしばらく無言。梓が切り出した。


「警察の覆面パトカーも出動したと通信入ったぞ。覆面パトカーは2台だ」
「警察も動いたか」
御堂が呟く。

「俺らの車はビル周辺で待機するからな。ビルのまん前だと怪しまれる。
おそらく警察もビル周辺で待機かもな。あの辺、ちょうどいいスペースがあるだろ」


鼎は無言のまま。



一方、イーディスはというと。


「あと30分くらいで鼎がビルに着くはず♪楽しみだわ〜」



イーディスがいる廃ビルを別のビル屋上から監視している矩人(かねと)。

「今のところ動きなしか…。あいつの元事務所は4階。動きがあればすぐにわかるはず。この位置だと」


矩人は周囲を見渡す。今現在はビル周辺に異常なし。


「矩人、イーディスは14時に紀柳院鼎と会うみたいだな。時間まで残り15分といったところかな」
當麻の通信音声が入る。
「今現在、ビル周辺異常ありませんよ」

「ゼルフェノアの車両は確実に来るから注視しておけ」
「了解」



鼎はだんだん近づく現場にかなり緊張していた。


「鼎、もうそろそろ着くぞ。あと…5分くらいかな。もうちょいしたら例のビルが見えてくる。…緊張してガチガチしてんな」

梓は鼎を気にしてる。御堂は例のビルが見えてきたと言った。


「廃ビルに見えねぇな〜。本当にここ、廃ビルか?
鼎、着いたぞ。俺達は近くで待機してるから不安になるなよ」
「警察も近くに来ているな…」



矩人はゼルフェノアの車両に気づく。


「當麻様、ゼルフェノアの車両が到着した模様」
「紀柳院がビルに入ったかは…わからないか…」

「組織車両はすぐにビルを離れたので、彼女はビルに入ったものだと思われます」
「周りを注視しろ。他に変化はないか?」


変化?


矩人は警察の覆面パトカー2台がビル周辺で待機していることにまだ気づいていない。



御堂と梓は警察と合流。ゼルフェノアでは馴染みのある、西園寺警部と会う。


「司令が紀柳院に超小型カメラを渡したのか。映像は警察のタブレットでも見れていますよ。
カメラは順調みたいだな」
「警部、どうも気になることがあるのですが」


そう言ってきたのは部下の束原。

「例のビルの近くのビルの屋上…人いません?気のせいですかね」
「人?」
「なんか挙動不審というか…気のせいかな」


束原は目がいいため、細かいことによく気づく。
この近くのビル屋上にいる人とは矩人のこと。

束原はどうも気になっていた。その人影を。



廃ビル内部。鼎は4階に着き、イーディスの元事務所へと入った。


「やっぱり来ると思ってたわ。紀柳院鼎司令補佐」
イーディスはふふっと笑う。
「イーディス…」

「ここ、懐かしいと思わない?数年前、あなたと一緒に活動していた拠点だよ」
「お前は一体何がしたいんだ…」


「知りたい?知りたいの?なんで私があなたを呼び出したのか…」


しばし無言となる2人。鼎は内心、恐怖だった。
仮面で顔が隠れていたおかげで助かったかもしれない。イーディスに怯えている顔を見られたくないから。


「鼎、また一緒に復讐稼業をしようと持ちかけたら…どうする?あの時みたいにさ」
「……断る。今の私には復讐心なんてない」

「好戦的だったあなたはどこへ消えたのかなぁ?
あの時の鼎は荒々しくて圧倒してたのに」
「私は戦えない身体になったんだ。それに…考えも変わった…。だからお前とは手を切ったんだ」


「手を切るなら何か言ってくれても良かったんじゃないの?
なんで何も言わずに来なくなったのよ。裏切ったのね、許さないから」
「それは………」



待機している車内にて。御堂と梓はハラハラしていた。


イーディスを刺激するなよー。刺激するなよー。
でも既に不穏だー。嫌な予感しかしない…。



覆面パトカー内では鼎の超小型カメラから映像を分析している。当然映像はリアルタイム。


「警部。この部屋がイーディスこと、六道の元事務所なんですよね」
「その情報は入ってるが、何か?」

「いまいちよく見えないんですが、部屋の片隅に何か置いてあります。…なんだろう…」
「束原はもう少し詳しく調べてくれ」

「了解」



矩人はようやく異常に気づく。ビル周辺にいる、あの車…覆面パトカーか?それも2台、それらしき車がある。
ゼルフェノアの車両も近くにいる。どういうことだ?


警察が嗅ぎ付けてきたのか?


矩人はヒヤヒヤしてる。警察はイーディスの捜査に出ているため、矩人が絡んでいる畝黒(うねぐろ)家は別件。

イーディスの捜査で来たのかもしれない…。我ら畝黒家はまだ明るみに出ていないはず…。



静岡県某所・畝黒コーポレーション。


役員の川辺はこの企業の元締め、畝黒當麻について調べている。
役員会議を開き、謎の地下研究所についても社内に社員に明るみにした。川辺は怪人に支配された会社を変えたいと思って動いていた。


地下研究所は怪人が作られた場所として報道されている。
これにはDr.グレアこと、常岡桂一郎もようやく認めた。



畝黒當麻の包囲網はじわじわと迫ってきているが、当の本人は涼しい顔。

人間が何したって無駄なのにね。矩人は忠実な部下だが、捨て駒に過ぎない。


雨だるい

話題:おはようございます。
昨日の拍手14個ありがとうございます。雨降りです。だるいし眠い。

雨のせいか、異様に眠い。昨日も眠くて眠くて。



昨日のマツコの知らない世界のせいで、スコーンが食べたくなった。どうしてくれるよ。


season3 第9話(1)

―なんだろう。胸騒ぎがする――大きい力がうごめいてる感じがするというか――

御堂が住むシェアハウスの共同スペースで、彼はずっと頭を抱えていた。時間帯は夕方。
御堂は帰宅してからこんな感じ。


「御堂、あなた顔色悪いわよ?どうかした?」
このオネエ口調は逢坂か…。

「いや…なんでもない…」
「もしかして、彼女のこと?鼎ちゃん。それで悩んでいたの?」


逢坂にはすぐ見抜かれてしまう。


「あいつ…明日、因縁のあるやつと会うって言うから、ずっと胸騒ぎしていて…。俺…どうすればいいんだ…」
御堂は初めて弱気を見せた。普段の彼とは違い、表情も不安げ。

「鼎ちゃん、ああ見えて強い子よ。ここぞという時にね。過去にそれ…なかったかな」
「………あった」
御堂は思い当たる節があるようだ。

「大丈夫よ、彼女は。あなたは心配しすぎてる。
御堂、お腹空いてない?何か食べる?」
「いえ…まだ空いてないです…」


逢坂に救われるとは。

なんだかんだこのチャーミングなちょっと不思議なおじさんは、人を癒してくれる。時々オネエ口調になるのはご愛嬌として。



翌日。ゼルフェノア本部。


いつも通りの穏やかな朝だったが、少し違っていた。
鼎はいちかと八尾に司令室前で遭遇。


「いちかと八尾、どうしたんだ?2人して」
「八尾ちゃんがきりゅさんにどうしても会いたいって言うから、来たの。
八尾ちゃん、きりゅさんのことが気になりすぎてて…。ちょっとパニクってるっす」

「あ、あの…今日あの人のところに行くんですか!?イーディスとかいうやつに…。私…心配で心配で。
司令補佐をネット配信で公開処刑した人のところにわざわざ行くんですか…?」

八尾は泣きそう。鼎は彼女の頭をいきなりわしゃわしゃした。

「ちょ、ちょっと何するんですか!わしゃわしゃしないでくださいよ!!」
「お前、可愛いな。もう決めたことなんだ。これは私の問題だから。心配してくれてありがとな」

鼎は司令室へと行ってしまった。


残された八尾、心臓バクバク。ドキドキ。
憧れの人にいきなり頭をわしゃわしゃされるって、嬉しいけどパニックが勝ってるよーっ!


いちかは恐る恐る声を掛ける。

「八尾ちゃん…きりゅさん相当覚悟してるみたい。あたし達はこの行方を見届けることしか出来ないよ…」
「司令補佐は絶対生きて帰ってきます!!きますから!!」

八尾はそう言い聞かせた。



司令室。宇崎が鼎にあるものを渡す。それは小豆ほどの小さな丸い物体。

「室長、これは…?」
鼎は手に取り、目に近づけてじっくり見る。彼女は常に仮面姿なため、小さい物は少々見づらい。


「それは超小型カメラだよ。イーディスが待ち受けてるビル内部は、何があるかなんてわからない。カメラはちゃんと音声も拾えるぞ。
それを制服かコートに装着して欲しいんだ。ビル内部の状況がわかるからね。ちなみに映像は本部モニター・御堂が運転する組織車両に備え付けてるタブレット・警察の覆面パトカーも見れるようにしてあるぞ。警視庁も見るかもな」


鼎は超小型カメラをコートの胸ポケットあたりに装着。コートは黒いため、超小型カメラはわからない。

しかし…警察も動くなんて聞いてないが…。


「鼎、警察がイーディスについて捜査してるの…知らなかったっけ」
「今初めて聞いたぞ」

「イーディスこと六道樒(しきみ)は復讐サイトの管理人だが、ターゲットが怪人と『人間』ってのがね。
六道は『復讐代行』で、人殺しをしている可能性が高いわけ。それで水面下で捜査してたらしい。
先月のイーディスのネット配信で、警視庁サイバー捜査班が一気に捜査を進展させたのよ。つまり、今回の鼎が接触するイーディスは、警察からしても好都合なわけ。解析班と西園寺警部も連携してるからね」


水面下で警察が本気出していたなんて。


「鼎、その超小型カメラは午後1時になると自動的に起動する仕組みになってる。お前…あれからイーディスに何かしらメールとか来てなかったか?」
「…来てました。『午後2時までに江東区某所・ビル4階』に来いと」


ここでビル4階にイーディスの元事務所があると判明。
このビルは現在、廃ビルであるが比較的新しいためパッと見わからない。


「解析班、取れるか?」
「なんですか、司令」

「鼎が呼び出された場所の詳細がわかった。江東区某所・ビル4階。警察に伝えといて」

「りょーかーい」



ゼルフェノア本部・隊長用執務室。御堂は副隊長の仁科と話をしていた。
仁科はデスクワーク中。


「仁科」
「ん?なーに、御堂」
仁科は顔を上げ、手を止めた。


「午後に鼎の警護につかなきゃならんから、隊員達をよろしくな」
「御堂、気にしすぎじゃないの?琴浦も警護つくんだからさ」

「そりゃそうだけど…」
御堂に迷いがある様子。

「紀柳院と会えばいいだろ。まだ行くまで時間はある。そこでちょっと話…したら?御堂も少しは楽になるはずだよ」


仁科のおかげで少しだけ気が楽になった。

「仁科、デスクワーク何も今やらなくても…」
「平常心を保ちたいんだよ。新人隊員の訓練も畝黒(うねぐろ)のせいでなかなか出来ないし。
各自、自主トレしているみたいだよ。時に八尾が目覚ましいんだ。司令補佐に認められたい一心でここに入ったから、彼女は本気だ」



江東区某所・ビル。


矩人(かねと)はイーディスの元に来た。

「なんなのよ、矩人。また来たの?一体何の用なのよ…」
「今日が楽しみなんだよね〜。紀柳院鼎を呼び出して何をするのかなぁ」

「矩人は暇なの!?さっさと帰ってよ!」
イーディスはカリカリしている様子。


矩人は意味深な表情を一瞬した後、元事務所を出た。

イーディスはまだ気づいていない。この元事務所とこのフロア…4階に爆弾を仕掛けていることを。


矩人は元事務所の中をイーディスとの少ないやり取りで観察していた。
部屋の片隅にあったポリタンク…灯油かガソリンが入っているな。それも2つ置いてある。用意周到だ。

あれで紀柳院を焼き殺すつもりなんだろうか…。
イーディスは紀柳院に一方的に恨みがあるらしいし、数年前にトラブルがあったとかなんとかで。


矩人からしたら紀柳院よりもイーディスの始末が優先。ゼルフェノアは後。
これは當麻の方針だからだ。



「當麻様、イーディスは相当紀柳院を恨んでいるようですね。一方的にですが…。
紀柳院は始末の対象にはならないんでしょう?」

矩人は當麻と通話。


「紀柳院鼎司令補佐は戦えない身体だという情報が入っている。
彼女は始末の対象外だよ。イーディスだけ始末しなさい」
「了解しました。…當麻様、イーディスの元事務所にポリタンクがありましたが」
「ポリタンク?」

「もしも…もしもですよ?イーディスは紀柳院を道連れにするつもりではないでしょうか」


仮面の司令補佐がイーディスに消される可能性もあるわけか。


「矩人、ビル周辺を監視してくれ。爆破は時限式ではないんだろ」
「時限式もありますよ?こちらで起爆することも出来ますが」
「當麻様の指示通り、威力の強いものを仕掛けましたよ。3ヶ所にね」

「矩人も本気出すと恐ろしいねぇ」
「畝黒家のためならなんなりと」


當麻は通話を切った。矩人は忠実な手下だ。ただの使用人じゃない。



いつの間にか昼近くになっていた。


season3 第8話(4)

怪人2体をひたすら車で追う支部隊員達。
「月島、今どこ走ってんの?俺達は。怪人2体になかなか追いつかないけど」
「茅ヶ崎ですが」

囃(はやし)は茅ヶ崎と聞いて焦りを見せる。
このまま通過して横浜に行ってしまったら東京は間近じゃんか!!


そんな中、運転している高槻はあることに気づいた。

幹線道路なのに、急に車がいなくなったのだ。答えはすぐにわかった。

警察が道路を封鎖してるんだ!一体誰が警察と連携したんだ?
高槻は目を凝らした。ヘリの音が聞こえる。そのヘリは支部のもの。


いきなり囃達に向けて通信が入った。

「神奈川県警と連携して道路は封鎖したぞ。怪人2体を止めるなり、ぶっ倒すなりしてくれ。
横浜にはシールドシステムあるから既に起動した。だから横浜にはその怪人は入れない」

「その声…鶴屋!?」
囃は声を上擦らせる。待望の援軍が来たんだ!
「囃、私もいるんだけど?」

久米島も一緒のようだった。


「いつの間に道路封鎖したんだよ!?」
囃は2人に聞く。

「え?小田原司令がナチュラルに県警に連絡していたよー?『強力な怪人2体が東京方面に向かってるから、東京にはなんとしても入れさせるな』って。それで県警が動いたのさ〜。
鶴屋が符術でさらに結界張ったから最悪、横浜で足止め作戦ってわけ」


久米島、ぽや〜とした言い方。高槻はチャンスだと思ったらしい。

「マキナに攻撃を堂々と仕掛けられますね。注意をこちらに仕向けましょうかね」
そう言うと、高槻は運転席にある謎のボタンを押した。すると車体から銃口が出現。マキナに向けて銃撃。


当然、怪人2体は銃撃に気づき方向をこちらに変えた。彼の読み通り。
高槻はものすごいドリフトで車を停めた。

「この2体、撃破しましょうか」
「高槻さん、相手…強化マキナだぞ!?それも2体。1体だけでも苦戦する敵だってのに」

「鶴屋さんと久米島さんがいる時点で勝機はありますよ。符術使いと火薬のスペシャリストがいるんだから」
「鶴屋はわかるけど、久米島で勝機?どゆことよ」
囃は呟いた。


確かに鶴屋の符術は強力だが、久米島はただ爆破してるようにしか見えないが?


「おい囃、火薬以外にも得意分野はあるんだ。ナメんなよ。あと聞こえてたぞ、全部」

聞かれてた…。



強化マキナ2体は支部隊員と交戦。本部隊員がめちゃくちゃ苦戦していたのもわかるが、なんだよこれ…強い…!
高槻はカーチェイスで酔った高羽の面倒見てる。

「振り回してごめんなさいね。高羽さんにはキツかったかな」
「まだちょっと気持ち悪いですよ…」


「弱点は胸の核、つまりコアなのはわかっているでしょ」
「鶴屋は冷静すぎ…」


「敵の装甲は硬いというから私が爆破してやるぜ!覚悟しなっ!」
久米島は手榴弾のようなものを怪人に向けて大きく振りかぶってぶん投げた!まるで野球の投球フォームになってんぞ…久米島…。

「もういっちょ!」
久米島はもう1体の怪人も見逃さない。だからその投球フォームはなんなんだよ!!


久米島がぶん投げた小型爆弾は怪人にヒット。爆発する。
小さいわりには威力が強いものだった。

「月島、あれ使えあれ」
「今回は楽器型武器は使いませんよ?あれは茶番ですから」

茶番であの強さはおかしいだろ!楽器型武器使わない方が強いのかよ…月島は…。意外すぎる…。


月島はサブマシンガンを構えた。なんだか新鮮に見える。

あのサブマシンガン…通常装備のものじゃないな。月島用?なんかデザインが違う。


囃は油断してしまい、怪人に攻撃を受けていた。

「頼りねぇ分隊長だよな〜。御堂がバカにするぞ」
久米島のこの一言で囃はスイッチが入ったらしい。久米島はわざと煽ったのである。


「久米島…お前!」
「やっとスイッチ入ったか。これだから囃はさ〜。『御堂』というワードに反応したな?してやったり♪」

久米島に嵌められたが、この状況なのでありがとうと思っている。あいつはわざと煽ったんだから。

囃は対怪人用野太刀型ブレードを抜刀すると、一気に斬りつける…というか叩きつける。ものすごい威力。


彼は強化マキナ1体を実質1人で撃破した。
もう1体は月島と鶴屋が交戦中。鶴屋は起爆札と拘束札を巧みに使い、動きを封じた。

「月島!今だ!!」
「了解」


彼女は一気に強化マキナを蜂の巣にする。あらかじめ久米島が爆破したおかげで、コアはあっさりと破壊された。
隊員の長所を活かし、計算され尽くした戦いは支部隊員ならでは。


実は支部隊員、スペックだけなら本部隊員よりも幾分高いが支部ゆえにおざなりにされがち。囃は御堂に早く追いつきたいと思っていた。

彼はまだ分隊長。同期の御堂は隊長。


「怪人2体、撃破しました。東京への侵入は阻止しましたよー。被害は警察のおかげで最小限です」

囃はかったるそうに小田原司令に報告。この通信は本部でも聞いていた。


さすがはテクニカル系隊員が多い支部。
本部・司令室には御堂の姿があった。


「あいつら強化マキナ2体撃破したの!?倒すの早くない!?」

「久米島と鶴屋がいるからね〜。テクニカル系隊員の筆頭でしょ、あの2人。
月島も楽器型武器なしだと本当は強いんだよね。今まで表に出してなかっただけでさ」

楽器型武器でも十分強いと思うのだが――茶番だったのか?


「あなおそろしや」
「なんだよそのリアクション」



畝黒(うねぐろ)家。


「矩人(かねと)。強化マキナ2体が撃破された」
「阻止されたのか〜」

「明日のイーディスを始末する任務は必ず成功させろ。しかし、マキナの襲撃を逃れた社員がいたとはね…。記憶を消さないとな」


マキナの襲撃を逃れた社員とは川辺のこと。

川辺はこの事実をいち早く公表することに踏み切ることにする。会社が怪人の手玉にされていたなんて。それにあの地下研究所は怪人を明らかに作った痕跡があった。

嫌な予感がする…。



「高槻さん、畝黒コーポレーションの社員の救済策ってあるのかな。社員は知らなかったんだろ?…なのにひどすぎる…」
鶴屋はこんなことを呟いた。

「その件はうちの組織も支援するって。怪人によって支配された企業は数あれど、ここまで大きい企業はない。
役員の川辺も動くだろうね。問題は気絶させられた社員だよ……。Dr.グレアが怪人を作っていた地下研究所が明るみに出たら、畝黒コーポレーションは終わるだろう。その前に社員を救済するんだよ。再就職先の支援とかね」


高槻さん、やけに詳しくない?なんで地下研究所がDr.グレアが使っていたとわかるんだ?



本部・司令室。鼎はようやく戻ってきた。


「大丈夫か?少しは良くなったか」
宇崎は優しく鼎に語りかけた。
「あぁ」


鼎は御堂を見た。

「和希、明日…私は行こうと思う。これは私の問題だ。イーディスと決別したいためにも話し合いが必要だから」
「あいつ、大人しく話聞くようには見えないけど…いいのかよ…」

「あいつを復讐から解放させたいんだ。復讐に取り憑かれた哀れな女をな」
「気をつけろよ。六道はお前の弱点知ってるみたいだし、攻撃してくる可能性もある」


「そんなのわかってて言ってるんだよ…覚悟は決めたから」



第9話へ。

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