「ジークベルト様おやつが食べたいの?じゃ特別にひとつだけよ。」

「ピエリ。まだ歯が生えてない赤ん坊にお菓子は食べさせるな。」

ジークベルトをピエリに隠すように抱きかかえってマークスは言った。

「えー。赤ちゃんのうちから美味しいものを食べさせてもいいと思うのにー。」

「お菓子なら今からでなくともこれから新作のお菓子が出るだろう。それに赤ん坊に食べさせるべき食べ物は親の手料理だ。」

「だぁー。」

ジークベルトは無邪気にマークスの服の飾りで遊んでいる。

「マークス様。ジークベルト様を育ってるつもりですか?」

「‥‥‥」

答えなかった。

「ガロン国王陛下の耳にはいってますか?」

「言っていない。父上に言えるわけがない。」

「えっ?育ってるつもりなの?」

「仕方ないだろう。暗夜王国に慈善院の数どれくらいあると思っている。」

「孤児の方が慈善院よりも多いの。」

マークス様はひとつ溜め息を吐く。

「赤ん坊を引き取ってくれる空きがない。赤ん坊を知っている人を探しても手がかりもない。」

「あー。」

「ジークベルト様はマークス様の子供じゃないのですか?こんなに顔つきも髪の癖もそっくりですし。」

「うん。くりそつなのよー。てっきりジークベルト様はカムイ様とマークス様との間に生まれた子供だと思ってたのよー。」

「ふぇぇぇん。」

マークスの周りが凍りついた。静かに怒ってる。

「ふぇぇぇん。ふぇぇぇん。」

「ジークベルト泣き止め。」

またカムイの肖像画をジークベルトに見せると

「きゃっ。きゃっ。あー。」

嬉しそうにジークベルトはカムイの肖像画に手を伸ばした。

マークスにとって「カムイ」は禁句だ。ラズワルドから見たマークスとカムイは血の繋がりがないことを除けば本当の兄妹に見えていた。過ごした時間の長さも。マークスが前からカムイに好意があったことも。

「失礼します。マークス王子。」

「マクベス!」

「本物ではございません。これは魔術で作った分身です。それやよりも王命がございます。」

「‥‥」

「赤ん坊を連れてガロン王のもとへお越しください。では失礼します。」

マクベスが消えた。赤ん坊の待遇をよくなるものでないだろうと思いめぐらませる。

「きゃっ。きゃっ。」

王命が出た以上は赤ん坊を連れて行かないわけにはいかないな。

続く