朝がくるまえに雑用をこなすことが使用人の一日の始まり。ジョーカーは、うたた寝をしつつもカムイの朝食を作った。ギュンターは、訓練用の武器と防具を磨いた。新人使用人ジュンーに成り代わったリョウマも使用人の仕事をこなした。武士としていかなるときも万全なリョウマには、使用人の仕事は、さほど苦にもならかった。朝の時間になるとメイドの双子でカムイを起こした。
「朝ですよーカムイ様。」
うなりながらカムイが起きた。暗夜にいても起こされると機嫌が悪い顔になることは、変わっていなかった。
「まだ眠い。」
そして双子のメイドが氷の部族の冷気を出して眠気を飛ばした。使用人に成り代わったことでカムイの生活でわかったことと言えば、ガロン王から放任されている。その代わり暗夜の兄弟姉妹が北の城塞へ毎日のように来ては、優しくも厳しくもカムイを本当の家族のように過ごしている。
余暇の時間。休憩中にフェリシアがそわそわとリョウマを見つめた。リョウマが視線をフェリシアに向けるとさっと目をそらした。しばらくするとフェリシアがリョウマに近づいた。
「あのあのっ‥‥」
「なんだ?」
「あの記憶がなくなったのは本当なのですか?私が誰かわかりますか?」
「フェリシア」
「頭痛には、なってませんか?」
「いいや。健康だ。」
フェリシアが黙った。
「もし白夜の王子リョウマと同じかおをした人間が三人もいる。本物のリョウマが暗夜の使用人として入れ替わったらどうする。」
「見せしめ処刑になりますね。リョウマさんと言えば「白夜の虎」と呼ばれる程に強い侍ですし。」
「そうか。フェリシアこの間のことは、気にするな。使用人となる前のことはひとつも覚えてない、もう気にしていない。今ある時間で思い出になることを作ればいい。」
リョウマは、微笑み言う。フェリシアがほっとしたのか
「では、また一から使用人としての心構えをジュンさんにおしえていきますよー!最初は、カムイ様と王族の方に「様」づけをさせるところからです!」
握りこぶしを作りふんっと鼻をならした。
「そんなに様をつけなかったか。」
「そうですよ!ジュンさん王族の方々に様をつけ忘れてますー。ジュンさんに記憶喪失になるほどに大怪我を負わせたことには、私のせいです。王族の方に様をつけないで呼ぶことは、恐れがおおいですよ!」
フェリシアが人差し指をさしてジュンに指摘する。
本物の使用人のジュンは、フェリシアのドジで掃除中のジュンを見晴台に落としたらしい。
フェリシアの目の前にいるのは、時間の軸の違う白夜王子リョウマ。だけど誰一人も気づかない。本物の使用人のジュンは、現代のリョウマと顔がよく似ていたのかもしれない。もしジュンがフェリシアのドジで死なずにいたらどんな顔になっていたのだろうか。老けた自分の顔を見ることを想像したらリョウマは、複雑になった。